「あ、もうこんな時間だ」

左手首に付けていた腕時計を見たミッシェルは、残念そうな顔を浮かべながら立ち上がった。

「ごめんね、ソフィア。これからヴァイオリンのお稽古があるの」

「そっか。それなら仕方ないね」

「また今度。一緒にお茶会しようね」

ミッシェルは軽く手を振ると校門の方へと駆けて行った。ミッシェルの後ろ姿を見届け空を見上げた。

「今日は……青いな」

そう呟いて立ち上がると夏の温かい風が吹き込み、髪とマントをなびかせる。歩き出そうとした時、肩の上に黒い塊の何かが乗ってきた事に気がつく。

「こんにちは、ソフィア」

その正体はテトで甘えるように頬にすり寄ってきた。

「どこに行っていたの? 朝から姿が見えなかったから心配したんだよ?」

「散歩よ。久しぶりにとても良い天気なんだもの」

テトの言う通り確かに良い天気だ。学校が襲撃されたなんて思わせないくらい、青く澄んだ空が広がっている。

「アレスに声掛けなくて良いの?」

「用事もないのに話しかける必要ないでしょ?」

退院してからと言うもの教団の情報は一つも入って来ない。いやその前にアレスが一緒に捜査をさせてくれない。

私を助手にするって言ったのは自分なのに、ここ最近は忙しそうに動き回っていた。だから話を聞く時間もなかった。

「用事がなくても声くらい掛けても良いと思うけど?」

「……」

テトの言葉を無視して歩き出そうとした時だった。