「魔人の彼女とソフィアは全くの別人よ。魔人化している時の記憶を、ソフィアは覚えていないもの」

じゃあ襲ってきた人たちを殺したこともソフィアは覚えていないんだ……。それはそれで少しほっとするけど。

「あなたの記憶を消したのは巻き込みたくなかったんじゃない?」

「俺を? なんで?」

「それは直接本人に聞いてみたらどうかしら?」

「本人に?」

テトが俺の背後に視線を移す。それに釣られるように俺も後ろを振り返った。

「うわっ!?!」

驚いて思わず座っていた椅子から立ち上がる。俺の後ろには視線を下にさげたままのソフィアが立っていたんだ。

「さっきまで寝ていたはずなのに、いつの間に……」

ベッドの方へ目を向けると、そこには寝ているはずのソフィアの姿はなかった。となると、今目の前に居るのは本物のソフィアということになる。

「そんなに慌てなくても大丈夫でしょ?」

テトは呆れながら俺の肩の上に乗ってきた。

振り返った時に後ろに居たら誰でも驚くだろ……。

そう思いつつソフィアへと視線を戻す。よく見るとソフィアの髪色は昨晩と同じ白銀へと変化していた。ゆっくりと顔を上げたソフィアの真っ赤な瞳の中に俺の姿が映る。

あの時のような嫌な魔力は特に感じられなかった。いつも通り落ち着いているソフィアのように見える。

「この姿になるのも久しぶり……よく私の力を抑えていたねテト」

「あなたに褒められるなんて光栄よ」

テトは凄く嬉しそうに尻尾を左右に揺らす。その揺れる尻尾がちょくちょく俺の頬に当たるのは気になるけど。

「アレスも久しぶり。しばらく見ない間にますますイケメンに育っちゃってさ」

そう言った彼女は俺に駆け寄ってくると抱きついてきた。

「ひ、久しぶりって言うか……昨日ぶりだろ?」

「そうだっけ?」

魔人化にしていない時のソフィアとは違い、こっちのソフィアはとても素直だ。

なぜこうも性格が違うんだ。

あっちのソフィアもこれくらい素直な可愛いのに。