「話してあげるけど、このことはソフィアには言わないでほしいの」

「理由があるのか?」

俺の言葉に頷いたテトはチラッとソフィアを見たあと俺に視線を戻すと言う。

「記憶が壊れるから」

「は?」

記憶が壊れるってどういうことだ?

「彼女の記憶は改竄されているのよ。だから言わないで」

「記憶の改竄って……」

そこまでする必要があるのか?

「とりあえず彼女はあなたの言う通り、魔人族の血を引く純血種よ」

「純血種……てっきり混血種かと思ったけど」

てとこはソフィアは本物の魔人族ということにある。でも魔人族は何百年も前に人間族に滅ぼされたはずだ。

「純血種と言っても魔人族はソフィアしか居ないのよ」

「じゃあ何でここに?」

テトは揺らしていた尻尾の動きを止めると言う。

「それは分からないのよ」

「分からないって?」

テトは肩から下りると机の上に登って窓の外を見つめた。

「ソフィアはね、あの屋敷の前で捨てられていたのよ。“ソフィア”と書かれた紙と一緒にね」

だからソフィアだけアフィアさんたちと髪色が違ったのか。最初に見た時は特に疑問は抱かなかったけど、よく考えたらソフィアは二人にあまり似ていない。

似ているところがあるとすれば、母さんが言っていたアフィアさんの性格くらいだろう。

「じゃあ何でお前はソフィアが魔人族だってことを知っていた?」

いくらテトでもソフィアが魔人族だって判断するのは難しいだろう。ソフィアが魔人族だということを知るなら、何らかのきっかけがあったはずなんだ。

窓の外を見つめていたテトはこちらに振り返ると言う。

「ソフィアは前に一度だけ魔人化したことがあるのよ」

「っ!」

“魔人化”という言葉を聞いて、俺は昨日のソフィアのことを思い出した。

月明かりに照らされて輝いていた白銀の髪に、俺を見つめていた真っ赤な瞳。