「焦ってるの?」

「っ!」

私の言葉にアレスは目を見開くと力を込めていた拳を解く。そしてじっと私を見てきた。

「違ったなら謝る。でも焦っているように見えたから……」

「……っ」

アレスはそっと私の髪に触れた。

「違う……焦っているわけじゃないんだ。ただ……」

アレスは一度言うことを躊躇う。でも数秒考え込むと決心して口を開いた。

「母さんの雫が……あいつらに奪われたんだ」

「っ!」

「もう時間がない。一刻も早くあいつらの居場所を突き止めて、母さんの雫を奪い返さないといけないんだ!」

アレスはそう言うと決意の眼差しを私に向けてきた。

「俺は……探偵としての在り方、技術や洞察力、それら全てを祖父様から教わった。それら全てを使って俺は母さんたちを助けたい」

そんなアレスの姿を見て改めて力になりたいと思った。

「ねえアレス」

私は真っ直ぐアレスを見据えて言う。

「アレスの力になりたい」

その言葉を聞いたアレスは目を見開く。

今の私ではアレスの足手まといになってしまうかもしれない。

探偵としての在り方も、捜査の仕方も洞察力も今の私には備わっていないものだ。それでもなにか、アレスのために出来ることがあるかもしれないと思った。私にしか出来ないことがあると思った。

だって私はアレスの力になりたくて、今まで頑張ってきたんだから。