お母様を失ったお父様は誰よりも悲しんでいた。仕事にも行かず毎晩泣き続けていて、私はそんなお父様の姿を見るのが心苦しかった。

今回だって私を失うと思ったはずだ。きっと怖かったと思う。

「正直言うと、俺もお前をこの事件には巻き込みたくない。最悪、死ぬことになるかもしれないんだ」

「それは……」

そうなったらきっとお父様はまた泣いてしまう。お母様の時みたいに。

でも、それでも私は――

「死ぬつもりなんてないよ。私はただあいつのせいで燃えしまった、魔法書のお金を請求したいだけ」

「お前らしいな」

アレスは苦笑した顔を浮かべると話し始める。

「サルワの狙いは俺たちの体内になる魔力の元――雫だ。雫がどういう物かは知っているよな?」

アレスの言葉に私は頷く。

「何のために雫を集めているの?」

手帳のペーぞを一枚めくったアレスは話し始める。

「俺が考えた予想は二つ。一つは雫を使った大規模なテロ。二つ目はヴェルト・マギ―アの完成だ」

「ヴェルト・マギーアって」

アレスがさっき私に聞いてきた言葉だ。

「あいつらの狙いが世界を創り変えるってことで良いのかしら?」

「おそらくな。だから雫を集めているんだ」

集めた雫を使えば召喚魔法を使って小竜やワイバーを簡単に召喚出来る。だからサルワはあれだけの数を召喚できたんだ。

「あいつらは集めた雫を結晶体にして、一つにまとまった魔力を使いヴェルト・マギーアを完成させようとしているはずだ」

「だからヴェルト・マギーアが何なのか私に聞いたんだね」

アレスのことだから私なら知っていると思ったのだろう。でも私はヴェルト・マギーアなんて魔法は知らない。ただ分かるのは“聞き覚えのある名前”だということだけだった。

「雫は七日以内には持ち主の体に返さないといけない。でないと肉体がマナの毒で侵されてしまう」

アレスは悔しい表情を浮かべる。

「雫はある魔法を使えば体内に戻すことが出来る。だから一刻も早く雫を奪い返さないといけないんだ」

拳に力を込めて言うアレスの姿を見て私は疑問に思った。