今直ぐにでもソフィアの雫が欲しいのか、サルワは更に魔法を放とうと俺たちに手をかざす。

そんなサルワの背後に数人のフードを被った人たちが姿を現す。

「サルワ様、ここは一旦……」

「……っ」

悔しそうに唇を噛んだサルワの背後に扉が一つ現れる。一人が扉を開けると、フードを被った人たちが順場に扉の中へと入って行く。

「待て、サルワ!」

扉の中に消えて行くサルワの背中に俺は問いかける。

「あの一族って何だ!? ヴェルト・マギーアって何だ!」

扉が閉まる直前こちらを振り返ったサルワが言う。

「人間族に滅ぼされた一族さ」

「なっ!」

その言葉を最後に扉は閉まるとその場から消え去った。

「……」

サルワの言葉には心当たりがあった。人間族に滅ぼされた一族――そんなのたった一つしか浮かばない。

「魔人族……」

俺は寝息を立てながら眠っているソフィアを見下ろした。

♢ ♢ ♢

教団が学校を襲ったことにより、数十人もの生徒たちから雫が奪われてしまった。それは主に紫雫や藍雫のクラスに所属している先輩たちばかりで、赤雫や白雫のクラスに所属している生徒たちの中で雫を抜かれた者は一人もいなかった。

雫を抜かれた先輩たちは直ぐに病院へと運ばれた。もちろんソフィアも。

今回の事件を全て警察に報告し終えた俺は、警察と一緒に話を聞ける者から事情聴取に乗り出した。しかしどの先輩たちから話を聞いても、返ってくる言葉はみんな同じだった。

“フードを被った人たちに襲われた”

“霧が立ち込めてきた”

少し違うところがあるとしたら“学校が爆破され起きたら空に小竜やワイバーンが飛んでいた”くらいだろう。

「はあ……」

いくらか事情聴取を終え警察署に戻った俺は、報告書をまとめながら深く溜め息を吐いていた。

目の前には机いっぱいに置かれた報告書の山が積み上がっている。今からこれ全部に目を通さないといけないから今夜は徹夜だな。

「夜遅くにご苦労様だな」

そっと横から缶コーヒーを差し出され、それを受け取った俺は後ろを振り返る。そこには見知った顔の男が立っていた。

「カイトさんこそお疲れ様です」

「あんがとさん。それにしてもこの量は徹夜じゃすまないレベルだな」

凄く嫌そうな顔を浮かべながら、カイトさんは積み上がった報告書を見下ろした。