凍結の矢を放った事により、私の魔力はほとんど残っていなかった。これ以上魔法を使い続けたら雫が壊れてしまう。

でもここでサルワを倒さないと逃げることも叶わない。

「さあ一緒に来てもらおう」

「嫌よ……」

重い体を支えつつ、私は必死に思考を巡らせた。

どうやったらこの場から逃げることが出来るのか、どうすればサルワを倒すことが出来るのか、いくつもの案が私の頭の中を駆け巡っていく。

しかしその作戦はどれも魔法が使えないことには成功しない。魔法なしで逃げるのは不可能に近かった。

「……はあ」

溜め息を溢したサルワは私に手をかざす。

「黒影の鎖」

黒い鎖が再び伸びてくる。

「ま、また!」

私の体は再び鎖によって拘束されてしまった。

私は出来る限り体を動かして鎖の締め付ける強さを緩めようとした。しかしいくら体を動かしても、鎖の締め付ける強さは弱まらない。

それどころか体を動かす度に鎖の締め付ける力がどんどん強くなっていく。

「まったく諦めの悪いお姫様だ」

サルワが軽く指を曲げると鎖の締め付ける力が更に強くなった。

「あああっ!」

体に激痛が走り一瞬意識を手放しかけた。

「諦めたらどうかな? もう君の負けだ」

サルワは私に近づくと黒い手袋をを付けた左手を不気味な色に輝かせる。

「君の雫を見させてもらおう!」

そう言い放ったサルワは魔力のこもった左手を、私の体の中へと勢い良く打ち込んだ。

「っ!」

体の中へと入ってきたサルワの左手が中を探るように動かされる。

「ほお……これが君の雫か」

私の雫を見つけたのかサルワが手を伸ばす。

もうだめだ……。

自分自身を探られている気分になりながらそう思った。

雫が抜かれてしまえば私は二度と魔法を使うことが出来ない。アレスの力になってあげることが出来なくなってしまう。