「あれだけの雷を受けたら硬い鱗を持つワイバーンといえど、しばらくは動けないでしょう」

「そうだね」

そっと息を吐いて地面に足を付いた時だった。

「黄色雫の魔法使いにして高度な魔法を使いこなすとは、なかなか良い雫を持っているな」

「っ!」

直ぐ近くで声が聞こえ、風で流れて来る煙の方へと目を向ける。

「……誰?」

歩いてくる靴の音が響き、煙の中からフードを被った人たちが姿を現した。

「……もしかして!」

「我々は黒の魔法教団です」

赤黒のフードを被った男が一歩前に出るとそう名乗る。周りに居た灰色のフードを被った人たちは、赤黒のフードを被った人だけをその場に残して、辺りに散らばるように姿を消した。

「黒の魔法教団って……」

「雫を抜き回っている連中よ」

男の様子を伺いながら肩の上でテトがそう耳打ちする。

「君はソフィアで間違いないかな?」

名乗ってもいないのに名前を呼ばれて目を見開く。

どうして私の名前を知っているのだろう?

「……だったらどうするの?」

「これは運がいい」

フードを被った男は嬉しそうに夜空を仰いだ。

「この学校には、私が求めていた雫を持つ者が多いのだよ」

男は両腕を広げると、命令するかのように叫んだ。

「さあみなの衆、雫を奪い尽くすのだ!!」

男の言葉と共に、煙の中から数匹のワイバーンが姿を現す。

「っ!」

あれだけの数の小竜とワイバーンを召喚するには、人間一人の雫だけじゃ無理なはずだ。なのにこの男は、いとも簡単に数匹の小竜とワイバーンを召喚した。

この男のどこにそれだけの魔力があるというのだ。

「君は特別な雫を持つ子だ。中級魔法や上級魔法を苦なく使いこなすことが出来る。私はそんな君の雫が欲しいんだよ」

「私の雫を?」

テトは目を細めて男を見つめた。

「正直、君以外の雫にはあまり興味はないんだ。しかし雫はあっても困らない物だからね」

「たくさんの人たちから奪った雫を、いったい何のために使うって言うの?」

男はニヤリと笑うと私に手をかざす。