「久しぶりにお話したいもの」

「時間があったら連れて来るよ」

母さにそう告げどうやってソフィアをここに連れて来るか、と言う案を考え始める。

普通に頼んだとしてもあいつは絶対来ないだろう。だから勉強のことを餌にしてここに連れてくるとしよう。

例えば“治癒魔法を学びたいなら、良い人を紹介してあげるよ”とでも言えば、あいつは食いつくだろう。

「楽しみにしているわね」

そう言った母さんはとても嬉しそうに笑った。

こうして母さんの嬉しそうな笑顔を見るのは何日振りだろう?

親父が亡くなってから女手一つで俺を育ててくれた母さんには、感謝してもしきれない恩がある。

俺が親父と祖父様の後を継いで探偵をやるかどうか悩んで居た時も母さんは言ってくれた。

「この先の人生であなたにとってこの決断は、未来へ歩む大切な一歩になるのよ。だからアレス、あなたのやりたいことをやりなさい」

その言葉のおかげで俺は探偵として生きていくことを決めた。

だから優しくそっと背中を押してくれた母さんの雫を、一日でも早く取り返さないといけないんだ。時間はもう限られているんだから。

「そろそろ行くよ」

「気をつけて帰るのよ」

病室を出る前に母さんの方を振り返って、軽く頭を下げた俺は病院を後にした。

病院の外に出た俺は胸ポケットに入れていた報告書を取り出そうとした。

「……あれ?」

しかしポケットにあるはずの報告書がそこにはなかった。

「な、何でないんだ!?」

胸ポケットから手を離し上着の両ポケット、ズボンのポケットに手を入れてみたが、方向所らしき紙は出てこなかった。

「どこかで落としたのか?! あんなもの誰かに見られたら……!」

必死に隠してきた教団のことや犯人についての情報が出回ってしまう!