それはある一つの種族を滅ぼしたことだ。

魔法書を読んでいくうちにその出来事に辿り着いたけど、どの魔法書にも歴史書にもその事に関する内容は記されていなかった。

分かることはただ一つ。この世界に暮らしていたのは本来十種族であり、その一つの種族を人間族が滅ぼしてしまったということだけだ。

人間族が滅ぼした種族は、見た目は人間族とそう変わりなく、ただ特殊な魔力を持っていたと言われる“魔人族(まじんぞく)”だ。

一つの種族として認められるまでは、他の種族たちとは交流を持たないように生きて来たらしい。

でも時々思うことがある。

人間族はなぜ魔人族を滅ぼしたのか、なぜ分かり合うことが出来なかったのかと――

そう思う度に、私の中で何かが膨れていく気がした。

♢ ♢ ♢

その日の授業を全て終えた私は寮へと戻って来ていた。

「お帰りソフィア」

「ただいまっ!」

私は羽織っていたマントを勢いよくベッドに叩きつけた。

「帰って来てそうそう機嫌が悪いってどういうことかしら?」

「あいつに聞いて……」

授業を全て終えた今日の放課後にでも、私はアレスに校内を案内する気でいた。

それなのにあいつは授業が終わるなり、私に何も言わずさっさと教室を出て行ってしまった。

その後ろ姿を慌てて追いかけたけど、廊下に出た時にはもうアレスの姿は見当たらなかったんだ。

「私に校内を案内させるという約束をさせておきながら、何も言わずにどっかに行くなんて……」

明日会ったらどこに行っていたのか問い詰めてやる……!

そんな私の様子を横目で見ていたテトは、尻尾をゆらゆらさせながらニヤニヤと笑っていた。