「ご主人様、アレス様がご到着されました」

「通してくれ」

「はい」

眼鏡をかけた初老の執事に扉の前で待つように言われた俺は、あちこちに視線を向けていた。

やっぱり理事長の部屋の前となると、壁の装飾や周りに置いてあるものが違う。どれもきらきらと輝いて見えて何だか触ってはいけない気がした。

「アレス様こちらへ」

執事に案内されながら俺は部屋の奥へと進んで行く。

本当に大きいなあ……。でも曽祖父の屋敷の方が広いのか?

そんなことを考えながら歩いて行くと豪華な扉が見えてきた。執事が先に扉を開き中へと入る。

すると――

「やあ、アレス君。久しぶりだね」

窓際で外を眺めていた理事長がこちらへ体を向けると、優しく微笑んで俺に声を掛けてきた。

俺は一歩前へ出て深々と頭を下げる。

「お久しぶりです、理事長。変わらず元気そうでなによりです」

「君の活躍は耳に届いているよ」

理事長は執事に向かって軽く手を上げる。それを見た執事は一礼すると部屋から出て行った。

理事長に促された俺は目の前にあるソファに腰を下ろした。

「もうあれから四年が経つのか」

「はい」

理事長の両親と俺の両親は学生時代から付き合いのある仲で、お互い時間があた時はよくお茶会を開いていた。

そんな両親に付き合って俺も遊びに行く機会が多かった。理事長の書斎室にはたくさんの魔法書があって、よく忍び込んでは勝手に読んだものだ。

「まさか君がお父さんの後を継いで、探偵になっているとは思っていなかったよ」

「それが小さい頃からの夢でしたから」

親父と祖父様の背中を見て育った俺は、いつしか探偵になりたいと夢を抱いた。探偵になって幾つもの難事件を解決して、この街に住む人たちの平和を守りたい。悲しむ人たちの手を取りたい。それが俺の目指したい探偵の姿だ。

「彼が今の君の姿を見たら、きっと心から喜んでくれるだろうね」

「それはどうでしょう。親父には頑固なところがありましたから、そう簡単には認めてくれないと思います」