「ううん。面白い人たちだったよ」
 
アレスは少し苦笑しながら椅子に座った。

「体の方は良いのか?」

「うん、雫の検査とかあるからもう少し入院しないと駄目だって」

「そうか」
 
アレスは小さく呟くと私の髪に触れる。
 
あの時アレスが私の名前を呼んでくれなかったら。私はどうなっていたのだろう? 

力に飲み込まれて私という人格がなくなっていたかもしれない。それに……アレスの前であんな子供みたいに泣きじゃくるなんて。

あんなに思いっきり泣いたのはいつ以来だろう?
 
私は安心したんだと思う。アレスが生きて居てくれ良かったと、アレスを失わずに済んで良かったと。

「ねえ、アレス……」

「なんだ?」
 
アレスの顔をじっと見つめて言う。

「どうして、命を張ってまで私を助けてくれたの?」
 
その質問にアレスは黙り込んだ。
 
もしかして聞いて良いことじゃなかった?

「そんなの決まってる」
 
アレスは私の腕を引くと優しく体を抱きしめてくれた。

「アレス?」

「ソフィアは俺にとって大切な存在だから」
 
その言葉を聞いて心臓が大きくはねた。大切な存在ってどういう意味の?

「そこから先は聞くなよ」
 
私の心でも読んだのか先手を打つようにアレスがそう言う。

「き、気になるじゃん!」

「良いだよ。気にしなくて」
 
そんなこと言われて気にしない子は居ないと思う。
 
そう思いながら溜め息をついた私は、アレスから離れると言う。