「これで雫も元の持ち主のところに帰るわね」

「でも行き場のない雫だってある。その雫はどうなる?」

「星に還るわよ。次の子たちが生まれるまでね」
 
そういったテトはムニンと一緒に空を見上げた。

「そんな……馬鹿な……」
 
サルワは口を開けたままその場に膝をついた。

「上手くいったか」
 
俺は腕の中に居るソフィアに目を戻す。ソフィアの髪も白銀から翡翠へと戻っていた事に気づき安心する。

彼女は中に戻ったのか……。

今回の戦いで彼女は魔力を消費しすぎたはずだ。しばらく眠っててくれると良いけど。
 
そう思った時ソフィアの体が急に重くなった。

「おわっ!」
 
俺は急いでソフィアの体を支えた。

「ソフィア……どうした?」
 
結晶体の魔力が抜けたせいで体の力が抜けてしまったのだろうか?

「ソフィア?」
 
ソフィアの名前を呼ぶが返事が帰って来ない。ただ返事の代わりに頭を左右に振っただけだった。

「どこか体が――」

「アレス……静かにして」

「なっ……!」
 
俺はそこでようやく気がついた。ソフィアが泣いていた事に――

ソフィアは泣く声を必死に抑えながら、俺の存在を確認するようにシャツを掴む手に力を込めた。

「……っ」
 
そんなソフィアの体を優しく抱きしめて言う。

「我慢するなよ。俺はちゃんとここに居る」
 
その言葉を聞いて安心したのかソフィアは声を上げて泣き始めた。そんなソフィアの背中を俺は優しくさすってあげた。

「アレス……アレス!」
 
名前を呼ばれる度、俺は何度も頷いた。

ロキとカレンも俺たちの側まで歩いて来る。

「もう朝か……」
 
朝日が昇ってくる事に気がついたムニンが言うと、俺たちは昇ってくる朝日に目を向けた。
 
朝日が忘却の山を照らしていく中。俺たちの戦いは終わった。