「アレス、ソフィアが隙きを見せたら、あなたはソフィアに抱きつきなさい」

「わ、分かった!」
 
ソフィアは苦しみながらいたるところに魔法をぶつけていた。まるで体に走る痛みをぶつけるように。

「ソフィア」
 
テトが名前を読んだ時ソフィアはテトの姿に気がつく。

「ソフィア、大丈夫よ……」
 
テトだという事が分からないのか、拳を構えたソフィアがテトに襲いかかる。しかしテトの優しい表情を浮かべる顔を見たソフィアは、拳をすんでのところで止める。

「お母様……」
 
テトをお母様と呼んだソフィアの意識が戻ったのか構えていた拳を下ろす。

「今よアレス!」

「ああ!」
 
俺はテトの横を通り過ぎ思いっきりソフィアの体を抱きしめた。

「ソフィア!」

「誰だ、お前は……?! 人間族の分際で……この私に触れるなど!」

「落ち着けソフィア!」
 
腕の中で暴れるソフィアは俺から離れようともがき始める。それを見た俺は更に抱きしめる腕に力を込めた。
 
俺の声は必ずソフィアに届く……必ず!

「しっかりしろ! ソフィア!!」

「――っ!」
 
動きを止めたソフィアはゆっくりと俺の顔を見上げた。その瞳は血のように真っ赤に染まった瞳ではなく、元の薄緑色の瞳に戻っていた。