「そうね。先生はいつも通り西棟の最上階に居るわよ」

「あそこまで行くのにどれだけ階段を登ると思っているのよ……」

深く溜め息を溢しつつフックにかけてあったマントを手に取って羽織り、ドアノブを回して外に出る。

テトも私の後を追うように着いて来る。

「歩いて行くのが嫌なら飛んで行けばいいじゃない?」

「他の生徒に見られたらどうするの?」

「見られてもソフィアは気にするタイプじゃないでしょ?」

テトの言う通り気にはしないけど噂になるのは嫌だ。

この“絶対零度の女”って名称も誰が広めたのか知らないけど、瞬く間に広がってそう呼ばれるようになったんだ。

だから変なことしてこれ以上変な噂を立てられたくない。

「だいたい先生の方から私のところへ来ればいいのよ」

「それは無理よ。あの先生って滅多なことがないと自室から出て来ないって有名なんだから」

「そうだけど……」

入学したての頃、初めて見た時は凄い先生なのだろうと思っていた。

しかしいざ授業を受けてみると、とんだ期待はずれな先生だった。

授業の途中で急に寝るし“忘れてた”とか言って、その日の授業をいきなり自習にしてしまう。

授業のやり方が雑すぎるせいでよく分からない。

そのせいで私の同期の子たちは頭を抱える者がほとんどだった。

そんな先生が私に用事を頼むのは、黄雫の魔法使いの中で一番良い成績を修めているから、と言うしょうもない理由からだ。

前なんて“自室の中が研究のせいで汚れたから、代わりに掃除してくれ”、“喉が乾いたから代わりに食堂に行って、コーヒーを持って来てくれ”など、くだらない理由で呼ばれた。

今回もどうせ同じような理由なのだろう。