「まずい!」
 
俺は元の大きさに戻っていたムニンを抱き上げる。

「闇の波動(ダークウェーブ)」
 
闇の波動(ダークウェーブ)が俺たち目掛け放たれる。俺は咄嗟に長椅子の後ろへと飛び込む。

「それで隠れたつもりなのかな?」
 
俺は頭の中で必死に作戦を模索していた。
 
どうすればソフィアを助け出す事が出来る? どうすればあいつの注意をそらす事が出来る? いくつもの難題が頭の中に溢れてくる。

「アレス。お前はソフィアのところに向かって走れ」

「ムニン?」
 
俺の腕からすり抜けて出たムニンが言う。

「あいつは俺が引き受ける」
 
そう言ったムニンは再び瞳を青く輝かせると、小さな狼の姿から今度は俺と同い年くらいの青年へと姿を変える。

「お、お前……その姿?」
 
真っ黒な短髪は所々はね頭からは耳がピクピクと動き、膝くらいまである尻尾がゆらゆらと揺れている。

「僕だって人間族に近い姿にだってなれるよ。もちろんテトもね」

「えっ?!」
 
俺はテトを見下ろす。
 
しかしテトは何も知らないように毛繕いを始めた。

こいつ……絶対隠してる。

「良いかアレス。俺が時間を稼ぐからその間にお前はソフィアを救出しろ」

「分かった!」

「それじゃあ……行くぞ!」
 
ムニンはサルワへ、俺とテトはソフィアの元へと走り出した。

「何を考えているのか知らないけど、君じゃ私には勝てないよ?」

「使い魔を甘く見てもらっちゃ困るな」
 
ムニンは床を蹴って大きくジャンプすると右手の爪を鋭く変形させる。