「いや、案外簡単に見つかったかもしれないぞ」

「えっ?」
 
ロキはそう言うと目の前を指でさした。
 
すると指をさした先からこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてくる。

「どうやら山に入った時点で俺たちがアジトに向かっている事はバレていたみたいだな」

「だったら話は早いじゃない」

「お、おい……二人共?」
 
俺の前に出たカレンはサファイアを鞘から抜き、ロキは両手に手袋をはめそれぞれ構える。二人のやる気に満ちた背中を見つめ俺は深く溜め息を溢した。

「死人が出ない事を祈るよ」
 
俺はテトとムニンを抱き上げる。

「行きましょう」
 
カレンの一言で俺たちは足音が聞こえる方へと走り出した。

★ ★ ★

「……っ」
 
私は重たい瞼を開いた。
 
さっきサルワに注入された薬の影響なのか体の自由がきかなかった。

両手首は上から伸びている鎖の枷がはめられていて、体は吊るされた状態になっている。天井からはステンドグラスの光が差し込み、教団の人たちが集まっているのが見下ろせた。
 
どうやらここは、礼拝堂の中のようだ。

これから……ヴェルト・マギーアを発動させる儀式が始まるのかな?
 
体の自由がきかない今の私にはなんの抵抗も出来ない。このまま儀式を行なわれるのを待つことしか出来ないんだ。

「随分と遅いお目覚めじゃないか」
 
サルワが空中魔法を使って私のところまで上がってくる。

「私をどうするつもり?」

「君には雫の全魔力を収める器になってもらうんだ。ヴェルト・マギーアを完成させるためのね」
 
ああ……やっぱり私だったんだ。アレスが言っていた【雫を入れる器】というのは。