「じゃあ、仮契約するぞ」
 
ムニンは小さな手を俺に差し出す。

「お前の指も出せ」

「分かった」
 
ムニンに言われるがまま俺は人差し指を差し出す。ムニンの指先と俺の指先が触れた時、俺の体が白く光り始めた。

「な、なんだこれ?」
 
光りは体から弾け飛ぶと俺の鎖骨近くに白い痣を作った。痣の形は三日月で、三日月の中に小さな星が浮かんでいた。

「それが仮契約の印だ」

「これが……」

「ソフィアの体にも、似たような紋章があるわよ」

「それで、仮契約をしてみた気分はどうだ?」
 
【どうだ?】と聞かれても返答に困る。

別にどこか変わったところもないし、魔力が上がったわけじゃない。変わった事と言えば痣が付いたってことだけだ。

「これでムニンの力が使えるのか?」

「そんなわけないだろ。お前が僕に命令すれば、僕がお前の命令に従って力を使うんだ」

「な、なるほど」
 
口調が悪いところは見逃すとしよう……。でもソフィアがテトに命令しているの姿は見たことがない。

そもそもテトは何の使い魔なんだ?

「忘却の山にはこれから行くんだろ?」

「もちろんだ。早くソフィアを助けださないと」

「行くのは良いけど、貴方一人で行くつもりかしら?」

「あっ……」
 
よく考えたら今の俺は一人だった。さっきはソフィアが居てくれたから、二人で何とかなると思っていたけど、一人であいつら全員を相手にするのはさすがに無理だ。
 
そう思った俺は頭を抱えて唸り始めた。