「長い……」

「えっ?」
 
眩い光を放っていた魔法陣から、何かが召喚されたのか白い煙が上がった。

「確かに願いは必要だ。だがその願いが長すぎるんだよ!」

「へっ……」
 
魔法陣の上にはちょこんと黒い獣が座っていた。黄緑色の瞳がギロリとこちらに見上げられる。

「こんばんは、ムニン。相変わらず口は悪いのね」
 
テトはムニンの側まで歩いてくると隣に座った。

「あんただろ? こいつに僕を召喚するように言ったのは?」

「そうよ」
 
ムニンは深く息を吐くと、俺に目を戻す。

何か……思っていたのとだいぶ違うんだけど……。
 
大きさはテトくらいだ。それにこの見た目は――

「狐か?」

「狐じゃない! 失礼な奴だな!」
 
やっぱり狐じゃない……か。狐ならもっとモフモフしているし、ムニンの毛並みは硬そうに見える。

「僕は狼だ!」

「えっ……狼?」
 
その可愛い見た目で狼なのか? ……いやでも、言われてみれば狼だな。

「くだらないことで、言い合っている場合じゃないでしょ?」

「僕にとっては重要なことだ!」
 
テトはムニンを黙らせるように、柔らかい肉球でムニンの口元を抑えた。

「アレス。用件をムニンに言いなさい」

「わ、分かった」
 
俺はしゃがみ込みムニンに頭を下げる。

「頼むムニン! お前の力を貸して欲しいんだ」

「嫌だね」
 
ムニンは間を空けることなく即答でそう応えた。