マンションの自分の部屋の扉の前に立ち、わたしは深呼吸する。それから、小さな鏡を鞄から取り出し、泣いた痕跡がないか確かめる。

 鏡をしまい込むと、家の鍵を出し、鍵穴に差しこみそれをいっきに回す。

 鍵を回しながら、心の中でつぶやく。

 イワヤマさん、イワヤマさん。

 リュウヘイ君を人の姿に戻してくれますか。

 それができないのなら、どうか、わたしの姿もリュウヘイ君と同じ、ゴールデンレトリバーの姿にしてください。

 リュウヘイ君以上に毛並みのいい、つやつやのゴールデンレトリバーに。