彼が犬になったというだけで、リュウヘイ君は今までと同じようにわたしの傍にいてくれるのに。

 なんで、寂しいの。

 いや、違う。

 ひょっとしたらこの寂しさはリュウヘイ君が今日一日家で感じていたものなんじゃないかしら。

 わたしが出勤してから、ひとりきりで家で留守番しているリュウヘイ君のことを思い浮かべてみる。

 口でボールペンを加えなければ細かい作業ができないリュウヘイ君。マンションの外に出て行けないリュウヘイ君。

 カーテンを閉め追うとしたら、引き裂いてしまったリュウヘイ君。

 そんなたくさんのリュウヘイ君の寂しさが、わたしの胸の中に流れ込んでくるのがわかった。


 その途端、今すぐリュウヘイ君の体を力の限り抱きしめたくなった。

 わたしのそれより少し高い位置にある、リュウヘイ君の筋肉とはまったく無縁の胸を、贅肉のないお腹を、腰を、ぎゅうっと抱きしめたくなる。

 そう、わたしの頭に浮かぶリュウヘイ君は今でも人間だったころの彼の姿。


 その姿は、家に帰ったところで目にすることはできない。

 それでも、いいじゃない。リュウヘイ君が傍にいてくれるのなら、何でもいいじゃない。

 今すぐ家に帰って、リュウヘイ君の人間の体の代わりに、毛並みのつややかな犬の体を抱きしめてあげよう。