いつだって何かトラブルが起こったとき、心配するのは夫の役目で、わたしは少し遠くからそれを眺めていればいいだけだったのに。

 マジメに物事と向き合うのは夫の役目で、もっと自由な立場から意見するのがわたしの役目だったのに。

 それが今は完全に逆転している。
 調子がくるってしまうではないか。

「それじゃあ、行ってくるわね」

 それからいくつかの問答をした末に、わたしは結局出勤する運びとなった。


 通勤電車に揺られながらも、どうしてもわたしは家に残るべきだったのでは、という思いを捨て切れなかった。

 電車の窓の外、次から次へと景色が後ろへ、後ろへと流れていき、どんどん一人ぼっちのリュウヘイ君を残したマンションの部屋が遠ざかる。

 やっぱり今になってリュウヘイ君は一人でいることの不安に怯えているんじゃないだろうか。あるいは土曜日に買ったばかりの犬のトイレに馴染めなくて苛立っているんじゃないだろうか。あるいは……。