「……東堂が、大切。いなくなってから、そう気づいた」
「なんだそれ、俺喜んで良いんだよな?」
「東堂がもし傷つくようなことがあったら、真っ先に守ってあげたいと、そう思う……」
「……ふぅん」
そっけない返事をしたのに、東堂は言葉を選ぶのに必死になっている私の肩を抱いた。
その時、頭の上からタイミングよく桜が降ってきて、私たちの視界にふわりと映り込んだ。
東堂は、真剣な顔で私を見つめて、私の髪にくっついた桜の花びらを払いのける。

「……俺さ、病院の待合室で、余命宣告されたばかりのハルに出会ってから、実は何回か一緒に病院に付き添ってたんだ」
「え、そうだったの……?」
知らなかった事実に、驚きの声を上げると、東堂は何かを懺悔するように話を続けた。
「俺、その時妹が交通事故で生死さまよってて、実はひとりで病院行くことが怖くて、ハルを励ますつもりで自分が助けてもらってた」
「そっか、妹さんが……」
「でも、ハルは強くて、余命宣告されてんのに平静で。なんでそんなに普通でいられるんだろうって思ってたけど、放課後の教室である女の子の写真を見ながら泣いているハルを見かけたことがあった。……写真は見せてもらえなかったけど、それが、冬香だったんだろうな」
東堂の声がわずかに震えていることに気づき、私は彼の手を強く握り締めた。それから、続けられた言葉に、私は胸を締め付けられた。

「世界で一番大切な人だって、言ってた。この世に悔いがあるとしたら、この子にもう一度会いたいって……」
私の知らないハルを、東堂は知っている。ハルがどんな思いで余命を過ごしてきたかを、東堂は私たちにも打ち明けられずにひとりで受け止めていたんだ。
ハルが余命のことは誰にも言わないでと、東堂にお願いしたから。

どんなに苦しかっただろう。
どんなに辛かっただろう。
私たちはそんな東堂の思いなんて知らずに、明日もハルと会えると信じて疑わずに過ごしていた。

「でも俺は、ハルの意思を継ぐためとか、そんな気持ちで冬香を好きになったわけじゃない……」
「うん……」
「冬香はハルと幸せになってほしいと、本当にそう思ってたんだ……なのにアイツ……」

東堂にはまだ、こんなに悲しみの破片が突き刺さっていたんだ。
ハルが黙って退学してしまった時、東堂は怒りながら本気で泣いていた。何もしてあげられなかったと、自分自身の無力さに怒っていた。
ハルに東堂のような友達がいたことを、本当に嬉しく思う。
東堂の葛藤に、思わず胸が苦しくなって黙っていると、東堂は肩をもっと強く抱き寄せて、私のことを長い腕で包み込んだ。
スーツのざらっとした肌触りが、頬を撫でる。