私たちが出会った意味は、君がいなくなった今、一体どこにありますか。

思わず泣き崩れそうになったその時、ふと耳の中にある言葉が入り込んできた。
　
ーー『俺の幸せな記憶の中に存在してくれて、ありがとう』

それは、パソコンから聞こえてきた演者のセリフのはずなのに、なぜかハルの声で聞こえた。
なぜかその言葉を聞いた時、ぶわっと洪水のように涙が溢れ出てしまった。
「ハル、ハルッ……」
嗚咽をあげて泣き始める私を見て、一緒に脚本を作ったヨージが静かに口を開いた。

「ハルは、この脚本を作る時、笑いながら言ってたんだ。“誰かの幸せの中に存在した。そんな奇跡があるだけで、生きていけると思わないか”って……」

私は、ハルの幸せな記憶の中に少しでも存在できていただろうか。
そうだったらいい。そうだったら、ほんの少しだけ救われた気持ちになる。
ハルがあの日言っていた言葉が、じんわりと胸の中に広がってきた。

ーー『心は心臓にあるって信じてる。だから俺は、ずっと冬香の心臓の中にいる。冬香が生きている限り、消えてなくなったりしない』と。

ぎゅっと、心臓付近の服を握り締める。私が生きている限り、ハルはここに存在している。そう信じても、いいだろうか。

「ハル、ずっと忘れないっ……、忘れないからっ……」

この心臓が、止まるまで。
私は君を忘れることはない。
もし私がいつか命の役目を終えて、君の元へ行ける日が来たら、また一緒に映画を観たい。
ぼろぼろの段ボールに穴を開けて、二人で潜って、子供みたいにはしゃぎたい。

またいつかね、ハル。またいつか。
その日まで、私は私の人生を生きよう。

生きているから幸せ、なんて言葉だけでくくるには難しすぎる人生だ。
生きていて辛いことなんて、山ほどある。二十年以上生きても、自分のことなんかちっとも好きになれないし、この先、今以上に泣くような日もやってくるかもしれない。

でも、そんな日は何度でも思い出す。
大切な君は、この左胸にいつでもいると。


たとえ何があっても、私の味方だと言ってくれた君が、ここにいると。


「皆、今まで心配してくれてありがとう、ごめんね……」
泣きながら出た言葉に、ムトーと麻里茂は抱きしめて頷いてくれた。
ずっとずっと狭くなっていた視界が、ようやく開けてきた。
私の周りにはこんなにも、優しい気持ちで溢れていたんだ。
動画が全て再生し終わって、エンディングが流れ切っても、私たちは声を上げて泣いた。

ハルが最後に残したメッセージを、私たちは真正面から受け取ったんだ。
……涙で止まっていた時間が動き出す。
今まで散々泣いてきたけれど、きっとこの涙は明日へ繋がっていると、そう思える。

無機質な編集室に、私たちの擦り切れそうな泣き声が染み渡っていった。