それから、再生ボタンをゆっくりと押した。

 スタートは、あの日撮った代々木公園での出会いのシーンだ。
 幼馴染である二人が、いつものように公園でなんでもない会話をしながら、徐々に“死へのカウントダウン”が見える設定を明かしていく。
 女の子はあっけらかんとした楽観的な性格で、男の子は対照的に全てを諦め冷めた性格。女の子より先に死ぬことが分かっている男の子が、少しずつ共に過ごすことでこの世界の美しさに気づいていく。

幼馴染で、男の子が先に死ぬという設定がハルと被っているせいか、私は次々にハルとの出会いを思い出してしまった。

最初出会った時は、いつも何かに怯えた目つきをしていた。
初めてハグの魔法を教えた時は、ようやく笑ってくれるようになった。
お母さんがいない時は、一緒に段ボールを改造して小さな映画館を作って遊んだ。
それから君は、突然いなくなった。
ハルの両親の仲がそんなに複雑で、ハルを振り回していたなんて知らなかった。

それから、中学校で再び再会した時は、ハルは明るくてムードメーカーで、本当にヒーローみたいだった。
福崎さんにいじめられた時は、いつでも私の味方だと、ハグの魔法をかけてくれた。
本当はその時、ハルの心も両親の離婚で弱っていたはずなのにね。
文化祭で福崎さんにペンキをかけた時は、正直ハルが怖かった。
でも、その翌日、どんなことが起こっても私を取ると言ってくれたハルへの恋心にやっと気づいた。
私も何があってもハルの味方でいたいと思った。
塾帰りに突然襲われかけた時、君は目を赤くするほど涙を流して私のことを心配してくれていた。
そして、君の共鳴する力を初めて知らされた。
ハルの味方でいると決めた私なのに、自分の汚い感情を知られることが怖くて逃げた。
あの時ハルは、本当に傷ついたよね。辛かったよね。孤独だったよね。本当にごめんね。
それから、ハルのお母さんにとても辛い出来事が起きて、私は記憶を失って、ハルと離れ離れになった。ハルと会えない期間は、日々が毎日灰色で、思い出がない。
再び大学で出会った時、ハルは記憶喪失になっていた。それが私を思っての嘘だったと、私は随分経ってから知ったね。
共鳴することに協力すると決めた時、レイトショーの終わりに、私の心は私のものだと言ってくれた。あの言葉があったから、私は自分の意見を言葉にすることが少しずつできるようになったんだ。

合宿をした時は、積み重ねたジェンガが崩れていくみたいに、過去の出来事が現実を崩壊させた。でもあの時崩れてよかったんだ。
生きていることが正解なのか分からないと泣いているハルを見て、今度こそ絶対に守るって、決意することができたから。
それから、皆の過去も次々と分かって、私たちは本当に出会うべくして出会ったのだと実感した。
全てを曝け出してハルを愛する日々は、本当に宝物のように美しかった。

それなのに君は、最後に大きな秘密を残していた。

ひどいよ。こんなに、こんなに、こんなに、愛しいという感情を与えて、いきなり去ってしまうなんて。
一体いつから分かっていたの。どんな覚悟で私に会いに来てくれたの。どうしていつも、私が傷つくことばかり気にして、自分を押さえつけてしまうの。
私だって、決めていたんだ。生きることにずっと迷い続けていた君を、絶対絶対、幸せにするって、決めていたんだ。
それなのに君は、一方的に私に幸せばかり降らせて、消えてしまった。

私は、何のためにこの世界に残されているんだろう。
残された側の人間は、一体何を想って生きていけばいいんだろう。
ハル、私は、迷子になってしまったよ。
心を枯らすなと言われたのに、その約束は守れなかった。
ダメな子だね、私は。呆れるほど弱い人間だ。ハルはこんな私のどこを好きになってくれたのかな。全然想像がつかないよ。

ねぇ、今でも、ハルが好きだよ。
でも、君を好きでい続けることは、“停滞”なんですか?
私の心は止まっているのですか。進まないことは悪ですか。過去を振り返ることは意味のないことですか。
ハルがいないと、自分のことも愛せない。
こんなちっぽけな自分が、大嫌いだよ。