最後の遺言もなく、定型文で届いた手紙を受け取ったあの日から、私の時間は止まったままだ。
 大学を卒業して、社会人になって、仕事に揉まれて、私を取り巻く環境は変わっても、私自身は変われていない。
 周りの声に耳を閉ざして、分かったふりして笑顔でやり過ごして、何も考えたくないときは仕事をした。
 

 今、ムトーに腕を引かれながら、私は再びあの活動場所へと向かっている。
 どうしてこんな私でも、ムトーや東堂や皆は、見放さないでいてくれるんだ。

「すみません、隣の編集室で観るので、上映作品のDVD貸してください」
 講評会が終わって、丁度私たちの作品含む過去作品の上映が始まる直前で、ムトーは後輩の卓からDVDを受け取った。
 それから、麻里茂とヨージを強引に連れて、隣の小さな編集室へと移った。
 廊下を歩いている途中で、外の景色を見て固まった様子だった東堂と鉢合わせた。
 東堂は驚いた表情で戻ってきた私を見て、それからムトーが手にしたDVDを切ない表情で眺める。

「……観よう、皆で」
 大丈夫だから、とでも言うような優しい声で、東堂は私の背中にそっと手を回した。
 ……正直、とてもとても怖いよ。心臓がバクバクと音を立てて、全身を震えさせる。
 あの日、映像コンクールに提出した次の日の朝ぶりに、私は編集室へと足を運んだ。
 そう、ハルと最後にあった日以来、私はこの埃っぽい部屋に入っていなかった。

 つけっぱなしのパソコンの無機質な音だけが響く部屋に入ると、ムトーはすぐに席に座りDVDをセットした。
 それから、再生ボタン直前の画面まで進めて、私をパソコン前の席に誘導した。
 躊躇して震えていると、背中を麻里茂とヨージがさすってくれた。

「もっちー。麻里茂はね、この作品、もっちーに見届けてほしい。それがハルの、最後の願いだと思うから……」
 麻里茂の震えた声を聞いて、初めて私は気づいた。
 もしかして、緊張しているのは私だけではないんだろうか。
 皆の顔を改めてぐるっと見回してみると、なんとも苦しそうな表情で、青白く光る画面を一様に見つめていた。

「とか言って、麻里茂も実は観るのまだ二回目なんだよね……。私もなんだかんだ、観るの怖かったからさ」
「麻里茂……」
 皆は、ハルとお別れもまともにできないまま、別れてしまったんだ。
 過ごしてきた時間は短くても、皆ハルのことを友達だと思っていた。
 なんで私は、自分だけが悲しんでいると思っていたんだろう。さっきムトーに浴びせた言葉を思い出して、私は自分が情けなくなった。
 
 ハルはそういえば、言っていたな。
 私を思う優しい言葉を跳ね返したりするなって。

 どうしてこんなに、周りのことが見えていなかったんだろう。

 皆に背中を押されて、私はパソコンの画面と向き合った。