「……私も、撮影期間しっかり確保して、本気で撮ってみたい。だ、誰かを、感動させられる作品を……」
後半部分の言葉はなんだか少しむず痒くて小声になってしまったけれど、自分の気持ちを以前よりずっと言葉にできるようになったと思う。
ハルはそんな私を見て、また、“いいじゃん”と言って笑った。ハルの笑顔は、ここ最近もっと明るく優しくなった。
もちろん他のメンバーも同じ気持ちで、映像コンクールに参加することは任意だけれど、全員一致で参加を決定した。
締め切りは今から約半年後の夏頃だ。脚本もまだゼロの状態と考えると、時間に余裕は左程ない。
「じゃあそしたら早速、割り振りを……」
ヨージがいつものように進行してくれたところで、ハルが突然挙手してある希望を告げた。
「はい、俺脚本書いてみたい」
「え、ハルが! そういえば、前に書いてみたいって言ってたもんねぇ」
麻里茂は最初驚きの声を上げたが、以前のことを思い出して何か納得したようだった。
ハルは何かきっと伝えたいことがあって、脚本係に立候補したんだろう。そんな目をしていた。
「と言っても、俺は超素人だから、ヨージの補佐として参加したい。でも、ゼロの所から俺も関わりたいんだ」
「分かった。ハル、一緒に書こう。俺も自分のサブカルな趣味に走りすぎな傾向があるから、その時は正してほしい」
ヨージはハルの希望を真剣に受け取め、二人で脚本を作成していくことが決定した。
ハルが描いてみたいと思った世界を、カメラに映してみたい。私は素直にそう思った。
ムトーはハルが書くことを冗談で不安がっていたけれど、きっと二人ならいい脚本を書いてくれると思う。
話がトントン拍子で進んでいくと、今までほとんど黙っていた東堂が口を開いた。
「ハル、お前どんな作品撮りたいとか希望あんの?」
東堂の質問は面接官みたいに鋭くて、もっと柔らかく聞くことはできないのかと毎回思ってしまう。
ハルはその質問に対して、迷うことなくこう返した。
「うん、決まってる。東堂には個人的に話したいから、あとで聞いて」
「なんだそれ。今話せばいいのに」
「……いや、東堂に託したいんだ」
託す、という言葉を聞いて、東堂はなぜか黙り込んでしまった。
そういえば、東堂とハルの過去は詳しく聞いていない。
東堂とハルは、高校でどんな友達同士だったんだろうか。
そして東堂は、どうしてハルと元々知り合いであることを黙っていたんだろうか。
気になる点はあるけれど、きっといつか教えてくれるだろう。
そんな呑気なことを思っていると、突然ハルが心臓付近を右手で押さえつけて、一瞬表情を強張らせた。
私はその一瞬を見逃さずに、思わず過剰に心配した顔つきでデスク上に置かれていたもう片方のハルの手を握ってしまった。
「ごめん、一瞬動悸がしただけ。怖いから、そんな顔すんなよ」
「な、そりゃ心配するでしょっ」
「大丈夫だって。前よりは良くなってるから」
そう言って、ハルは食後に飲むと決まっている薬を取り出して、水でそれを流し込んだ。
大丈夫とハルは言うけれど、前よりも薬の量が多くなっているのは気のせいだろうか。
でも、ハルが心配性な私に呆れた顔をしているので、薬の名前を読もうとすることを止めた。
本当に、大丈夫だよね、ハル。
私はハルの言葉をそのまま信じていいんだよね。
少しだけざわついてしまった胸を押さえながら、私は心を落ち着けるように水を口にした。
今は、このメンバーで作品を残すことに集中するんだ。
ハルが描きたいと思った世界を、しっかりと撮影してこの世に残そう。
私は静かに、胸の中でそう決断していた。
それから三週間ほど経って、一回目の脚本が上がってきた。
部室に集まった私たちは、数枚のコピー紙に書かれた物語を真剣に読んだ。
目の前にいるヨージとハルは、少し緊張したような顔をしている。
二人が描いた物語はこうだった。
後半部分の言葉はなんだか少しむず痒くて小声になってしまったけれど、自分の気持ちを以前よりずっと言葉にできるようになったと思う。
ハルはそんな私を見て、また、“いいじゃん”と言って笑った。ハルの笑顔は、ここ最近もっと明るく優しくなった。
もちろん他のメンバーも同じ気持ちで、映像コンクールに参加することは任意だけれど、全員一致で参加を決定した。
締め切りは今から約半年後の夏頃だ。脚本もまだゼロの状態と考えると、時間に余裕は左程ない。
「じゃあそしたら早速、割り振りを……」
ヨージがいつものように進行してくれたところで、ハルが突然挙手してある希望を告げた。
「はい、俺脚本書いてみたい」
「え、ハルが! そういえば、前に書いてみたいって言ってたもんねぇ」
麻里茂は最初驚きの声を上げたが、以前のことを思い出して何か納得したようだった。
ハルは何かきっと伝えたいことがあって、脚本係に立候補したんだろう。そんな目をしていた。
「と言っても、俺は超素人だから、ヨージの補佐として参加したい。でも、ゼロの所から俺も関わりたいんだ」
「分かった。ハル、一緒に書こう。俺も自分のサブカルな趣味に走りすぎな傾向があるから、その時は正してほしい」
ヨージはハルの希望を真剣に受け取め、二人で脚本を作成していくことが決定した。
ハルが描いてみたいと思った世界を、カメラに映してみたい。私は素直にそう思った。
ムトーはハルが書くことを冗談で不安がっていたけれど、きっと二人ならいい脚本を書いてくれると思う。
話がトントン拍子で進んでいくと、今までほとんど黙っていた東堂が口を開いた。
「ハル、お前どんな作品撮りたいとか希望あんの?」
東堂の質問は面接官みたいに鋭くて、もっと柔らかく聞くことはできないのかと毎回思ってしまう。
ハルはその質問に対して、迷うことなくこう返した。
「うん、決まってる。東堂には個人的に話したいから、あとで聞いて」
「なんだそれ。今話せばいいのに」
「……いや、東堂に託したいんだ」
託す、という言葉を聞いて、東堂はなぜか黙り込んでしまった。
そういえば、東堂とハルの過去は詳しく聞いていない。
東堂とハルは、高校でどんな友達同士だったんだろうか。
そして東堂は、どうしてハルと元々知り合いであることを黙っていたんだろうか。
気になる点はあるけれど、きっといつか教えてくれるだろう。
そんな呑気なことを思っていると、突然ハルが心臓付近を右手で押さえつけて、一瞬表情を強張らせた。
私はその一瞬を見逃さずに、思わず過剰に心配した顔つきでデスク上に置かれていたもう片方のハルの手を握ってしまった。
「ごめん、一瞬動悸がしただけ。怖いから、そんな顔すんなよ」
「な、そりゃ心配するでしょっ」
「大丈夫だって。前よりは良くなってるから」
そう言って、ハルは食後に飲むと決まっている薬を取り出して、水でそれを流し込んだ。
大丈夫とハルは言うけれど、前よりも薬の量が多くなっているのは気のせいだろうか。
でも、ハルが心配性な私に呆れた顔をしているので、薬の名前を読もうとすることを止めた。
本当に、大丈夫だよね、ハル。
私はハルの言葉をそのまま信じていいんだよね。
少しだけざわついてしまった胸を押さえながら、私は心を落ち着けるように水を口にした。
今は、このメンバーで作品を残すことに集中するんだ。
ハルが描きたいと思った世界を、しっかりと撮影してこの世に残そう。
私は静かに、胸の中でそう決断していた。
それから三週間ほど経って、一回目の脚本が上がってきた。
部室に集まった私たちは、数枚のコピー紙に書かれた物語を真剣に読んだ。
目の前にいるヨージとハルは、少し緊張したような顔をしている。
二人が描いた物語はこうだった。