ハルと、どれだけの時間抱き締め合っていただろう。
 私たちは感情を共鳴しあい、全身で感情を確かめていた。
 自分の指先だけが冷たくなっていることに気づき、どちらからともなく、ゆっくりと体を離した。
「雪……、車が動かなくなる前に、帰らなきゃね……」
 私の言葉に、ハルが静かに頷いた。
 それから、私の頬についた涙の跡を、そっと優しく拭ってくれた。
「冬香には、まだ説明しきれていないことも、沢山ある。……帰ったらまた、聞いてほしい」
「うん、分かった。聞くよ」
 私はハルのてをぎゅっと握りしめて、もうここから出ようと提案した。
 時刻は朝の八時で、気づくとスマホに大量の着信履歴が残っていた。
 そのほとんどは麻里茂からの着信だった。
 着信数に驚き固まっていると、再び彼女からの着信でスマホが震えたので、私は慌ててそれに出た。

「冬香⁉︎ 今どこにいるの」
「麻理茂、ごめん心配かけて……。今中学校にいるよ。ハルと二人で」
「分かった、今私たちも車に乗ってるから、すぐ行く。絶対待ってて」
「え、でも雪降ってるし、危ないよ、私たちも今すぐ戻るか」
 そこまで言った私の言葉を遮って、麻理茂はスマホを切ってしまった。
 まさかここまで心配をかけてしまったとは思わなかった。
 ……そういえば、私はまだ、麻里茂たちと出会った本当の意味を知らない。
 ハルがさっき言った、説明しきれていないこととは、麻里茂たちのことなんだろう。
 絶対待ってて、と言われてしまったからには、待つしかない。
 幸いまだ雪はうっすらと積もっている程度で、タイヤも引っかかることはないだろう。
「麻里茂たち、ここまで来てくれるって」
「そっか、分かった」
 色んな肩の荷が下りたかのように、ハルは力なく笑った。
 こんなハルの笑顔、久々に見た。
 私は再び現実を確かめるように、ハルの手を握りしめた。

 ハルのお母さんの出来事は、確かに思い出すには辛すぎる出来事だった。
 私のせいで死んでしまったと、自分を責めることは、ハルにとってなんの意味もないことは分かっていた。
 それなのに、私は抱えきれずに防衛本能で記憶を掻き消してしまったんだ。
 その間、ハルはひとりで自分の病気や進路と共に戦っていた。
 そして、めぐりめぐって、私たちは再会した。
 ただの偶然じゃなく、恐らく計画的に再会したんだろう。
 どういった経緯かは全く予想がつかないけれど、私はハルにそれ以上問いかけなかった。本人たちの口から聞こうと思ったから。

 それから、十分ほど経って、一台の車が校門前に止まった様子が、窓の上から見えた。
 私たちは一階まで降りて、車から出て門を超えてきた麻里茂たちを迎えに行った。
 ふわふわとした軽い雪が頭の上に降り積もることなんか気にせずに、麻里茂は一直線に私の元へ走ってきた。

「冬香、今まで嘘ついててごめん……っ、ごめんね」
「麻里茂、大丈夫だよ。大丈夫だから」
「ごめん、私、本当は、自分の罪悪感を消すためだけに、冬香と仲良くしていたの」
 私に抱き着き泣いている麻里茂のうしろには、ムトーとヨージ、東堂がいた。