その言葉に、ムトーは何も反論しなかった。
 ハルは、灰色の瞳をしたまま、福崎さんの背中を眺めていた。
 ヨージと東堂は、状況を理解できない表情で、私と同じようにその場に立ち尽くしていた。

 少し遅れて、駐車場に車を止めた麻里茂が私たちの元へ駆け寄ってきた。
「どうしたの、皆、大丈夫? 何があったの⁉︎」
 麻理茂の必死な言葉に、私は何も返すことができなかった。
 私の記憶に、重要な落とし穴があるとでも言うのか。
 突如、激しい頭痛に襲われた私は、その場に崩れ落ちてしまった。
そんな私に、福崎さんは更に畳み掛けるように、衝撃的な発言をし続けた。

「ねぇ待って、待って。嘘じゃん。麻里茂ってあんた、持田冬香のことレイプしようとした私の元彼の妹じゃん。久しぶり、元気?」
「は……、なんで、あなたここに……」

私を襲おうとした人間の妹が麻里茂……?
だめだ、もう頭が回らない。脳天から太い釘で刺されたような衝撃が体に走った。

「唯一、持田の記憶喪失の事実を知ってる詩織に、数年前のレイプ未遂犯の妹に、記憶喪失させるほどのショックを与えた幼馴染って……。どんなミラクルであんた達集まってんの? 残りの男二人も何か関係あるんじゃない?」
「やめて……もう、やめてよ! 兄のことはもう、関係ない!」
「よく聞きなよ持田冬香。友情だと思ってたことが、全部同情だらけの絆だったら、あんたどうすんの? 笑える」

もし、私たちの関係が、偶然や運命でなく、策略的だったら……?
そんなこと、一度だって考えたことなかった。だって私たちは、偶然同じ大学に進学して、偶然同じ映画好きで、偶然同じ映画サークルに入ることになっただけだ。
仲良くなったのは偶然で、出会えたことは運命で、何かひとつ歯車が狂ったら友達になることはなかったはずの、私たちのはずだ。

「東堂、ヨージ……、もしかして、ハルと同じ高校だった……?」

ふと、ヨージと東堂にそんな質問をふってみたが、彼らは何も言わずに俯いている。麻里茂とムトーは、今にも泣きだしそうな顔で、歯を食いしばっている。

「皆、私に何か、隠してるの……?」

がらがらと、自分の中で音を立てて何かが崩れだした。ああ、きっと、心が、崩れだしているんだ。

私を抱きしめるハルの腕の力が、これ以上ないくらい強くなっていくのを感じながら、私はそのままショックで意識を手放してしまった。