罪悪感も何もかも取っ払って残る感情はただひとつだよ。
ハル、私は、君にもう一度会いたかった。
ただそれだけなんだよ。
何度吹いても消えない灯火のように、その感情は私の心臓の中に在り続けていた。
「ハル」
彼の元へ近づき、 空気を微かに震わせるほどの声で彼の名前を呼んだ。
たった二文字を口にしただけなのに、まるで自分の心臓を締め付ける魔法の言葉みたいに、ぎゅっと胸が苦しくなって、泣きそうになってしまった。
ハルの名前を呼ぶと、彼がゆっくりとこちらを向いたので、その時私は彼が本当にハルなのだとしっかり実感した。
「ハル」
もう一度、唱えるように名前を呼ぶと、ばちりと目が合った。
……まるで、電流のような衝撃が爪先まで駆け抜け、再会の奇跡に体が震えたった。
十九歳になったハルは、中学の時よりも背が伸びて、ずっと大人っぽくなっていた。
黒髪で髪型は変わらないのに、目元が切れ長になって、より賢そうな顔立ちに変化していた。
でも、間違いなく、私が追い続けていたハルだった。
私は、もう一歩、静かに彼の元へ歩み寄った。そして、真っ直ぐ目を見て伝えようと決心した。
「ハル、久しぶり。私、冬香だよ……」
伝えたいことはこんなんじゃない。なんて言おう。ずっとずっと考えてきたはずなのに、どうして言葉にならないんだ。
震える手をもう片方の手で押さえつけて、私は謝罪の言葉を振り絞った。
しかし、そんな私の目を見つめて、ハルはとんでもない言葉を突きつけた。
「……ごめん、誰だっけ」
「え……?」
心が割れてしまうほどの、衝撃だった。
たった一言なのに、私の頭の中は強い閃光を浴びた様に、真っ白になってしまった。
すぐにハルの言葉を理解できずに固まっていたが、彼は真顔で私の顔を見つめている。徐々に体の血が冷えていく感覚に陥った。
ハルが、私のことを、覚えていない。
想定外すぎる事実に、私は思わずその場に崩れ落ちてしまった。
「冬香⁉︎」
崩れ落ちた私の元に、すぐにムトーが駆け寄ってくれた。他のメンバーも、何が何だか分からない様子で、私のそばに来てくれた。
「冬香、大丈夫? ハル、どうして……」
ショックで目を合わせられない状態の私の代わりに、ムトーが問いかけたが、返ってきた言葉はさらに私の胸をぐちゃぐちゃに押しつぶした。
「ごめん、俺、記憶が欠落してる期間があって……。君は、その時に会ったことがある人なのかな」
ハルの言葉に、その場にいた全員が絶句した。
空気が止まるとは、こういうことなのだと、生まれて初めて実感した。
ハルの記憶から、私が消えている。
ハルの人生に、私は一度も関わっていないことになっている。
ハルの中で私は、何億人といる人間の中の、なんでもない一人になっている。
耐えられそうにない衝撃の中で、私は強く強く自分の心臓付近の服を掴んだ。
くらくらとする意識の中で、私は私に言い聞かせた。
ハルと出会えた事実だけを、今は受け止めよう。
「市之瀬春人君だよね。私達、幼馴染、だったんだよ……」
良かった。涙をこぼさずに言えた。
涙を堪えられているうちに、私は言葉を続けた。
「はじめまして、私、持田冬香です。四年間、ハルとまた出会える日を、ずっと待ってました……」
十年以上の幼馴染に、まさかはじめましてを言う日が来るなんて、思っていなかった。
ハル、私は、君にもう一度会いたかった。
ただそれだけなんだよ。
何度吹いても消えない灯火のように、その感情は私の心臓の中に在り続けていた。
「ハル」
彼の元へ近づき、 空気を微かに震わせるほどの声で彼の名前を呼んだ。
たった二文字を口にしただけなのに、まるで自分の心臓を締め付ける魔法の言葉みたいに、ぎゅっと胸が苦しくなって、泣きそうになってしまった。
ハルの名前を呼ぶと、彼がゆっくりとこちらを向いたので、その時私は彼が本当にハルなのだとしっかり実感した。
「ハル」
もう一度、唱えるように名前を呼ぶと、ばちりと目が合った。
……まるで、電流のような衝撃が爪先まで駆け抜け、再会の奇跡に体が震えたった。
十九歳になったハルは、中学の時よりも背が伸びて、ずっと大人っぽくなっていた。
黒髪で髪型は変わらないのに、目元が切れ長になって、より賢そうな顔立ちに変化していた。
でも、間違いなく、私が追い続けていたハルだった。
私は、もう一歩、静かに彼の元へ歩み寄った。そして、真っ直ぐ目を見て伝えようと決心した。
「ハル、久しぶり。私、冬香だよ……」
伝えたいことはこんなんじゃない。なんて言おう。ずっとずっと考えてきたはずなのに、どうして言葉にならないんだ。
震える手をもう片方の手で押さえつけて、私は謝罪の言葉を振り絞った。
しかし、そんな私の目を見つめて、ハルはとんでもない言葉を突きつけた。
「……ごめん、誰だっけ」
「え……?」
心が割れてしまうほどの、衝撃だった。
たった一言なのに、私の頭の中は強い閃光を浴びた様に、真っ白になってしまった。
すぐにハルの言葉を理解できずに固まっていたが、彼は真顔で私の顔を見つめている。徐々に体の血が冷えていく感覚に陥った。
ハルが、私のことを、覚えていない。
想定外すぎる事実に、私は思わずその場に崩れ落ちてしまった。
「冬香⁉︎」
崩れ落ちた私の元に、すぐにムトーが駆け寄ってくれた。他のメンバーも、何が何だか分からない様子で、私のそばに来てくれた。
「冬香、大丈夫? ハル、どうして……」
ショックで目を合わせられない状態の私の代わりに、ムトーが問いかけたが、返ってきた言葉はさらに私の胸をぐちゃぐちゃに押しつぶした。
「ごめん、俺、記憶が欠落してる期間があって……。君は、その時に会ったことがある人なのかな」
ハルの言葉に、その場にいた全員が絶句した。
空気が止まるとは、こういうことなのだと、生まれて初めて実感した。
ハルの記憶から、私が消えている。
ハルの人生に、私は一度も関わっていないことになっている。
ハルの中で私は、何億人といる人間の中の、なんでもない一人になっている。
耐えられそうにない衝撃の中で、私は強く強く自分の心臓付近の服を掴んだ。
くらくらとする意識の中で、私は私に言い聞かせた。
ハルと出会えた事実だけを、今は受け止めよう。
「市之瀬春人君だよね。私達、幼馴染、だったんだよ……」
良かった。涙をこぼさずに言えた。
涙を堪えられているうちに、私は言葉を続けた。
「はじめまして、私、持田冬香です。四年間、ハルとまた出会える日を、ずっと待ってました……」
十年以上の幼馴染に、まさかはじめましてを言う日が来るなんて、思っていなかった。