自分がクラスから弾き出された瞬間は、くっきりと、はっきりと、分かっている。たった一年前の、たった一日での話だ。
私たちの住んでいる町は、人口が少ないため中学生に上がったタイミングで、西と東に分かれていた小学校の生徒が、一緒になる。
私がいた西の小学校は、東にくらべて「大人しくて真面目な子が多い」とよく校長先生に褒められていた。私は子供ながら、そのことが誇らしくもあった。
しかし、東の小学校の生徒だった子達は、垢抜けている子が多いと言われていた。そして容姿が垢抜けていることはグループ分けに大きく関係すると言われていた。「可愛いかそうでないか」という概念すら知らなかった私は、「外見で友達になるかを判断する」ということを、うまく飲み込めていなかった。
東の子は西の子を見下しているから、という噂だけが駆け回り、西に不穏な空気が漂ってしまい、入学前から親友の詩織と一緒にナーバスになっていた。とくに福崎さんという人が、東の小学校では最も敵に回してはいけない人だと聞いていた。
そして入学式当日の朝、私は間違いを犯してしまった。
教室内で何かを見定めるような、東の子のリーダーである福崎さんが生み出す冷たい空気を、誰もが感じ取っていた。西と東がまだ交わっていない、視線の置き所にも戸惑う空気の中、私は詩織と一緒に教室の隅っこに固まっていた。
そんな時、突然福崎さんが目の前にやってきたのだ。そして、彼女は私に「グループに入れてあげるから、ID教えて」と言った。
戸惑いながらもスマホをポケットから出して交換すると、彼女は天使のように「これからよろしく」と言ってニコッと笑った。
私の隣にいた詩織も、おずおずとスマホを差し出し、「私にも教えて」と言うと、福崎さんはそのスマホを思い切り手で払った。
「あんたみたいなブスとは無理」
そう言い放った彼女の冷たい瞳が、今でも忘れられない。
あまりにひどい行動に、私は思わず福崎さんをビンタしてしまった。
乾いた音が教室に響き渡り、まるでスローモーションのように教室のカーテンが風に舞い上がり、息を飲むように福崎さんの行動を見守っていた皆の目が私に向いた。

あれが、全てが終わった瞬間だった。福崎さんは私の体がよろめくほどの強さでビンタを仕返し、詩織は入学式の次の日から不登校になり、私は西の子からも東の子からも無視されることになった。

何がいけなかった。私の何が間違った。何が正しくて何が間違っていた。

ずっと、ずっとそんな自問をこの一年し続けている。
あれから丸一年経ち、教室に居場所がなくなってから、二度目の春が来た。
新学年になってすぐ、一年の頃から変わらない担任に呼び出され、「もっとクラスの子に積極的に関わっていこうよ。皆持田さんと話したがってるよ。もっと自分から心を開かなくちゃ」と言われた。私はその夜家で吐いた。
こんな日々を、卒業までのあと二年耐えねばならないのかと、そう思うだけでお腹の中が針で串刺しにされた。
一人でいることが、こんなにも恥ずかしくて、寂しいことだとは知らなかった。一体何が恥ずかしくて、何が寂しいのかも、分かっていないけれど。
「今日から、転校生が来ます。皆、彼が教室に入ってきたらちゃんと拍手するのよ」
丸いメガネを掛けたボブカットの若い担任が、明るい声で何か言っている。教室内ではほとんど意識をどこかに飛ばしていた私は、話も聞かずにぼんやりと校庭を眺めていた。
しばらくして、教頭先生の声と一緒に、教室のドアがガラッと開く音がした。後ろの席の女子達が、「ねえちょっとかっこよくない?」と騒ぎ出しているのが耳に入った。
ふと窓ガラスに映った彼の姿を見つめると、気のせいか、ガラス越しに一瞬目があった。
「……市之瀬、春人です」
彼の口から放たれた名前に、心臓がどくんと跳ね上がった。その声は、私が記憶していた声よりずっと低くて、馴染みのない声だったけれど、すぐに視線を窓ガラスから彼自身に移すと、私は今度こそ言葉を失ってしまった。
「得意な教科は数学で、苦手な教科は数学以外です。趣味は映画鑑賞。前の学校では、態度と目つきが悪いとよく言われていたので、こっちでは爽やかで真面目だと思われるよう頑張ります。ぜひ爽やかで真面目な転校生がきたという噂話を流してください。よろしくお願いします」
無表情なまま、笑っていいのか良くないのか分からない冗談をつらつらと話しているのは、間違いなくあのハルだった。