「東堂って呼んであげて。下の名前が嫌いらしいから。あ、俺ら高校が一緒なんだ」
薄手の黒いタートルネックを着た彼は、何がそんなに気にくわないのだというくらい無愛想だ。反応に困って、とりあえずへらっと笑いかけて見たが、彼は一度も私の方を見ない。
「こいつ、受験期間中も構わず映画観に行ったりしててさ。特技は好きな映画のセリフ丸暗記」
何も話さない彼に耐えられなくなったのか、ヨージが情報を付け足してくれた。
「えー、すごい! 東堂どんな映画観てるのー?」
麻里茂の問いかけにも東堂は反応を示さない。暫し沈黙が漂ったが、すぐにヨージが口を開いて場を繋げた。
「なんでも観るけど、結構暗めの邦画が好きだよ」
「東堂に話しかけてるのにヨージが答えてるじゃん。話せないの? クールボーイ気取りなの? 悪いけど今流行ってないよ?」
麻里茂の挑発に私はひたすらハラハラするばかりだ。東堂は女嫌いなのだろうかと思うほど、私達のことを見ない。じっと黙って東堂の言葉を待っていると、彼は予想外のことを口にした。
「……お前らみたいにすらすら言葉が出てこない。黙ってる間ずっと反応に困ってただけだ」
彼の言葉に、麻里茂はぷっと思わず吹き出してしまっていた。私も予想外の言葉に思わず笑ってしまいそうになった。
というよりも、笑うべきところなのかそうじゃないのか判断できない。それくらい、東堂は無表情で分かりづらい。
「ただの人見知りってこと? 麻里茂達がうざい訳じゃなくて?」
「今後うざいと感じることもあるかもしれないが、今はうざいとは思っていない」
「回りくどっ、本当は理系じゃないのあんた?」
「おい、理系に謝れ」
麻里茂の突っ込みにも動じず、堂々としている彼のキャラクターは、人生で初めて会う人種過ぎて小さな衝撃を受けてしまった。
固まっている私に、ヨージがふと質問を投げかけてきた。
「冬香も、映画が好きで入ってきたの?」
「うん、そうだね。小さい頃はダンボールで手作りの映画館とか作って観てたよ」
「え、まじ? 俺もそれ作ったことある」
声を出したのは、ヨージではなくさっきまでぶっきらぼうな態度だった東堂だった。打って変わって明るい表情になった彼は、相当映画好きなことが見て取れた。
「う、うん。スマホが埋め込めるようにカッターでダンボール切って……」
「あれ、サイズ感意外と難しいんだよな。懐かしい」
ハルと私しかやったことのない遊びだと思っていたから、私も思わず嬉しくなってしまった。
東堂は、好きなことの話になると、こんなに話してくれる人なんだ。悪い人じゃなさそうな気がする。そんなことを思いながら話し込んでいると、麻里茂が呆れたような声を上げた。
「なによ、もっちーとは話せるんじゃん。失礼な男ー」
「まあまあ、東堂は気分にムラがあるから……」
「本当気分屋のイケメンってたち悪い」
そんなことで話し込んでいると、教室に先輩達が入ってきた。上映時間が近づくにつれ、他の新入生も増え、私達は一番後ろの席で四人横並びのまま作品の上映を待った。
……ハルはいない。教室に入ってくる生徒全員の顔を見たが、やはりハルはそこにいなかった。
「もっちー、キョロキョロして、どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
こんなにすぐに上手い話があるはずないと、私は心の中で首を横に振った。
ハルに会える可能性だけをモチベーションに勉強していたから、少しでも気を抜いたらぽっきりと心が折れてしまいそうだ。
私は少しでも気を紛らわそうと、上映時間まで麻里茂たちの入部希望の理由を聞いた。
麻里茂はチラシで勧誘されるがままにやってきたんだとか。
ヨージはもともと漫画と映画が好きで、どうせならと、撮影もできる映画サークルを選んだ。
東堂は、分からないけれど、きっと本気で映画監督を目指して入ってきたような気がする。
「今日は皆さん、お集まりいただきありがとうございます。それでは、新歓PVから流していこうと思います。夜は新歓飲みもありますので、気になった方は是非参加してくださいね」
幹事長の言葉を聞いてから、新歓PVが教室内に流れ始めた。
春をテーマにした作品で、公園や土手で撮影した動画が爽やかな音楽と一緒に流れていく。
この映像を観ている間、私たちはこのメンバーで大学四年を過ごすことをどことなく察していたような気がする。
皆バラバラのキャラクターだけれど、隣に並んで映画を観ても、落ち着いて観られる気がしたのだ。
人との縁は、突然だ。突然繋がったり、切れたり、再び繋がったりの繰り返しだ。
薄手の黒いタートルネックを着た彼は、何がそんなに気にくわないのだというくらい無愛想だ。反応に困って、とりあえずへらっと笑いかけて見たが、彼は一度も私の方を見ない。
「こいつ、受験期間中も構わず映画観に行ったりしててさ。特技は好きな映画のセリフ丸暗記」
何も話さない彼に耐えられなくなったのか、ヨージが情報を付け足してくれた。
「えー、すごい! 東堂どんな映画観てるのー?」
麻里茂の問いかけにも東堂は反応を示さない。暫し沈黙が漂ったが、すぐにヨージが口を開いて場を繋げた。
「なんでも観るけど、結構暗めの邦画が好きだよ」
「東堂に話しかけてるのにヨージが答えてるじゃん。話せないの? クールボーイ気取りなの? 悪いけど今流行ってないよ?」
麻里茂の挑発に私はひたすらハラハラするばかりだ。東堂は女嫌いなのだろうかと思うほど、私達のことを見ない。じっと黙って東堂の言葉を待っていると、彼は予想外のことを口にした。
「……お前らみたいにすらすら言葉が出てこない。黙ってる間ずっと反応に困ってただけだ」
彼の言葉に、麻里茂はぷっと思わず吹き出してしまっていた。私も予想外の言葉に思わず笑ってしまいそうになった。
というよりも、笑うべきところなのかそうじゃないのか判断できない。それくらい、東堂は無表情で分かりづらい。
「ただの人見知りってこと? 麻里茂達がうざい訳じゃなくて?」
「今後うざいと感じることもあるかもしれないが、今はうざいとは思っていない」
「回りくどっ、本当は理系じゃないのあんた?」
「おい、理系に謝れ」
麻里茂の突っ込みにも動じず、堂々としている彼のキャラクターは、人生で初めて会う人種過ぎて小さな衝撃を受けてしまった。
固まっている私に、ヨージがふと質問を投げかけてきた。
「冬香も、映画が好きで入ってきたの?」
「うん、そうだね。小さい頃はダンボールで手作りの映画館とか作って観てたよ」
「え、まじ? 俺もそれ作ったことある」
声を出したのは、ヨージではなくさっきまでぶっきらぼうな態度だった東堂だった。打って変わって明るい表情になった彼は、相当映画好きなことが見て取れた。
「う、うん。スマホが埋め込めるようにカッターでダンボール切って……」
「あれ、サイズ感意外と難しいんだよな。懐かしい」
ハルと私しかやったことのない遊びだと思っていたから、私も思わず嬉しくなってしまった。
東堂は、好きなことの話になると、こんなに話してくれる人なんだ。悪い人じゃなさそうな気がする。そんなことを思いながら話し込んでいると、麻里茂が呆れたような声を上げた。
「なによ、もっちーとは話せるんじゃん。失礼な男ー」
「まあまあ、東堂は気分にムラがあるから……」
「本当気分屋のイケメンってたち悪い」
そんなことで話し込んでいると、教室に先輩達が入ってきた。上映時間が近づくにつれ、他の新入生も増え、私達は一番後ろの席で四人横並びのまま作品の上映を待った。
……ハルはいない。教室に入ってくる生徒全員の顔を見たが、やはりハルはそこにいなかった。
「もっちー、キョロキョロして、どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
こんなにすぐに上手い話があるはずないと、私は心の中で首を横に振った。
ハルに会える可能性だけをモチベーションに勉強していたから、少しでも気を抜いたらぽっきりと心が折れてしまいそうだ。
私は少しでも気を紛らわそうと、上映時間まで麻里茂たちの入部希望の理由を聞いた。
麻里茂はチラシで勧誘されるがままにやってきたんだとか。
ヨージはもともと漫画と映画が好きで、どうせならと、撮影もできる映画サークルを選んだ。
東堂は、分からないけれど、きっと本気で映画監督を目指して入ってきたような気がする。
「今日は皆さん、お集まりいただきありがとうございます。それでは、新歓PVから流していこうと思います。夜は新歓飲みもありますので、気になった方は是非参加してくださいね」
幹事長の言葉を聞いてから、新歓PVが教室内に流れ始めた。
春をテーマにした作品で、公園や土手で撮影した動画が爽やかな音楽と一緒に流れていく。
この映像を観ている間、私たちはこのメンバーで大学四年を過ごすことをどことなく察していたような気がする。
皆バラバラのキャラクターだけれど、隣に並んで映画を観ても、落ち着いて観られる気がしたのだ。
人との縁は、突然だ。突然繋がったり、切れたり、再び繋がったりの繰り返しだ。