よれよれの部屋着を着た私を真っ直ぐに見つめて、ハルは今までの人生全てが崩れてもいいと覚悟したかのような表情で、信じられない事実を私に告げた。
「……俺、冬香の鼓動と自分の鼓動を重ねると、冬香の気持ちと共鳴できるんだ」
「え……」
そんなこと言われたって、すぐに信じられるはずがない。何を言っているのか理解できずに固まっていると、ハルが信憑性を高める為にか、滔々と語り始めた。
「福崎が、あの男二人に、仕向けたんだな……。冬香は田んぼの用水路に男を突き落として、なんとか逃げた」
「な、なんでそこまで細かいこと……」
「男は、福崎に目をつけられるようなことをしたからだって言った。冬香は、その言葉を受けて俺のことを憎んでた。だからずっと会いたくないと思っていた」
「や、やめて……」
「今冬香は、自己嫌悪で苦しくて仕方ない」
こんな風に自分の気持ちを的確に解説されることなんて、経験したことがない。当たりすぎていて、怖いとさえ思ってしまった。
ハルは、本当に私の感情を読み取ってしまったの?
だとしたら、今までハグをしてきた回数だけ、私の気持ちは彼に駄々漏れてしまったのだろうか。
「嘘だ……、本当に……?」
衝撃で語彙も崩壊した。私は、頭の中を真っ白にした状態で、ハルに問いかけた。
ハルは、真剣な顔のまま、静かに頷いた。
「……本当は、何度も言おうと思ってた。この力がついた理由は、俺も分からない。ただ、幼い頃冬香が泣いている俺を抱き締めてくれる度に、この気持ちを簡単に分かってもらえればいいのにと懇願してから、段々鼓動が重なり合っていく感覚が鮮明になって……」
「そんな、ハグの魔法なんて、あんなのただの子供だまし……」
「信じたくないなら、信じなくていい」
ハルは、今にも壊れそうな顔でそう断言した。そんな彼の表情を見て、彼は真実しか言っていないということを、じわじわと理解していった。
それから、さっきの感情を読まれてしまったことを、急激に恥ずかしく思った。
一番知られたくなかった汚い自分を、私は今、全て彼に知られてしまった。見られてしまった。
恥ずかしい。嫌だ。消えてしまいたい。
「冬香が俺を憎むのは当然だ。それ以上自分を責めるな」
「や、やだ……、触らないで」
こんな自分を悟られるのが嫌で、肩に触れていたハルの腕を、私は静かに振り払ってしまった。ハルは一瞬傷ついた顔をしたけれど、こんな私の反応はとうに覚悟していたように、すぐに表情を元に戻した。
だけどその時の私は、自分のことでいっぱいいっぱいで、ハルの気持ちを汲み取る余裕なんて一ミリもなかった。
「ずっと、読まれていたの……? 心を覗こうと思って、私を抱きしめていたの……」
怯えきった私の瞳を見つめて、ハルは静かに首を縦に振った。その瞬間、私の目から涙がぽろっと零れ落ちた。
こんな大嫌いな自分の、一番嫌いなところが、ハルには筒抜けだったなんて。
もう怖くて、一緒にいられないよ。こんな自分をこれ以上知られたくないよ。ハルにだけは、知られたくなかったよ。
私は弱くて小さい人間だから、自分の心の裏まで知られることは、震えるほど怖いよ。
それが、大切な人であればあるほど、怖いよ。
「ハルが、怖い……」
その言葉を言ったときのハルの顔は、指先で触れたら粉々に崩れてしまいそうなほどだった。
でも、私は弱くて、色んな事件が重なりすぎて、全部抱えきれなくて、ハルがどんな思いで告白をしたのか、ちゃんと考えられていなかった。
どこにも行かないでと言ったのは私なのに。
ハルはどこにも行かないと言ってくれたのに。
私はハルの味方だよと言い続けていたのに。
「ごめん、ハル……っ」
それなのに、なんで私は、彼を突き放してしまったんだろう。
どうして手離してしまったんだろう。
「……俺、冬香の鼓動と自分の鼓動を重ねると、冬香の気持ちと共鳴できるんだ」
「え……」
そんなこと言われたって、すぐに信じられるはずがない。何を言っているのか理解できずに固まっていると、ハルが信憑性を高める為にか、滔々と語り始めた。
「福崎が、あの男二人に、仕向けたんだな……。冬香は田んぼの用水路に男を突き落として、なんとか逃げた」
「な、なんでそこまで細かいこと……」
「男は、福崎に目をつけられるようなことをしたからだって言った。冬香は、その言葉を受けて俺のことを憎んでた。だからずっと会いたくないと思っていた」
「や、やめて……」
「今冬香は、自己嫌悪で苦しくて仕方ない」
こんな風に自分の気持ちを的確に解説されることなんて、経験したことがない。当たりすぎていて、怖いとさえ思ってしまった。
ハルは、本当に私の感情を読み取ってしまったの?
だとしたら、今までハグをしてきた回数だけ、私の気持ちは彼に駄々漏れてしまったのだろうか。
「嘘だ……、本当に……?」
衝撃で語彙も崩壊した。私は、頭の中を真っ白にした状態で、ハルに問いかけた。
ハルは、真剣な顔のまま、静かに頷いた。
「……本当は、何度も言おうと思ってた。この力がついた理由は、俺も分からない。ただ、幼い頃冬香が泣いている俺を抱き締めてくれる度に、この気持ちを簡単に分かってもらえればいいのにと懇願してから、段々鼓動が重なり合っていく感覚が鮮明になって……」
「そんな、ハグの魔法なんて、あんなのただの子供だまし……」
「信じたくないなら、信じなくていい」
ハルは、今にも壊れそうな顔でそう断言した。そんな彼の表情を見て、彼は真実しか言っていないということを、じわじわと理解していった。
それから、さっきの感情を読まれてしまったことを、急激に恥ずかしく思った。
一番知られたくなかった汚い自分を、私は今、全て彼に知られてしまった。見られてしまった。
恥ずかしい。嫌だ。消えてしまいたい。
「冬香が俺を憎むのは当然だ。それ以上自分を責めるな」
「や、やだ……、触らないで」
こんな自分を悟られるのが嫌で、肩に触れていたハルの腕を、私は静かに振り払ってしまった。ハルは一瞬傷ついた顔をしたけれど、こんな私の反応はとうに覚悟していたように、すぐに表情を元に戻した。
だけどその時の私は、自分のことでいっぱいいっぱいで、ハルの気持ちを汲み取る余裕なんて一ミリもなかった。
「ずっと、読まれていたの……? 心を覗こうと思って、私を抱きしめていたの……」
怯えきった私の瞳を見つめて、ハルは静かに首を縦に振った。その瞬間、私の目から涙がぽろっと零れ落ちた。
こんな大嫌いな自分の、一番嫌いなところが、ハルには筒抜けだったなんて。
もう怖くて、一緒にいられないよ。こんな自分をこれ以上知られたくないよ。ハルにだけは、知られたくなかったよ。
私は弱くて小さい人間だから、自分の心の裏まで知られることは、震えるほど怖いよ。
それが、大切な人であればあるほど、怖いよ。
「ハルが、怖い……」
その言葉を言ったときのハルの顔は、指先で触れたら粉々に崩れてしまいそうなほどだった。
でも、私は弱くて、色んな事件が重なりすぎて、全部抱えきれなくて、ハルがどんな思いで告白をしたのか、ちゃんと考えられていなかった。
どこにも行かないでと言ったのは私なのに。
ハルはどこにも行かないと言ってくれたのに。
私はハルの味方だよと言い続けていたのに。
「ごめん、ハル……っ」
それなのに、なんで私は、彼を突き放してしまったんだろう。
どうして手離してしまったんだろう。