◯
あの日から、不思議とハルがそばに来るとドキドキするようになってしまった。
ドキドキする、というよりも、愛おしくて胸が苦しくなる、という感情に近かった。
何があっても私を取ると言ったハルの真剣な声が、鼓膜の奥にまで張り付いて離れない。
ハルのことをいまさら意識してから、部屋に二人きりだったり、抱きしめあったりしたことが、急激に恥ずかしくなってきた。
ハルは、一体私のことをどう思っているんだろう。どんな意味で大切に思ってくれているんだろう。
「ハル君、いらっしゃい」
今日は珍しく母親の帰りが早く、ハルが私の家に来る頃には夕飯の支度をしていた。ハルはいつも言わないお邪魔します、を口にしてから、いつもより少しかしこまって部屋に上がった。
「冬香、今日はリビングにワックスかけたばっかりだから、自分の部屋で遊んでてくれる?」
こんな日に限って、母親はとんでもないリクエストをしてくる。私はうんと頷きはしたが、内心は緊張していた。
自分の部屋にハルを入れたことはなかったし、ハルを変に意識してしまっているこのタイミングで二人きりになるとは思っていなかった。
ちらりとハルを見ると、いつもと変わらない表情で「部屋で映画観れんの?」と聞かれた。観れるけど、と私は真顔で静かに返した。
階段を上がって一番奥の自分の部屋のドアを開けると、すぐに沈黙が気まずくならないようにテレビをつけた。
ハルはきょろきょろと辺りを見回しながら部屋に入り、私のお気に入りの大きな丸いクッションの上に座った。
「何これ、超いいじゃん」
「でしょ! それに座って映画観ると最高なの」
「そんな贅沢なことしてたのかお前は」
ハルがクッションの弾力を確かめるように何度か跳ねる度に、ハルの柔らかい髪の毛がふわっと宙に浮いた。
「あ、待ってハル、危ない」
ふと、ハルのクッションの近くに、シャーペンが落ちていることに気づいた私は、かがんで彼の近くへ寄った。
すると、クッションに座っていたハルが、下にかがんでいる私の髪の毛に、突然するっと指を通した。
「うわっ、何すんの」
驚きハルを見上げると、ハルは真顔で私の髪を掴んだまま呟いた。
「髪の毛伸びたなーと思って。お前小さい時ずっとヘルメットみたいなおかっぱだったじゃん」
「うるさいなあ、髪離してよ」
「いいだろ。触るくらい」
「よ、よくないよ」
「なんで? 俺なのに?」
俺なのにって……。一体どこからその自信が来るのか私には分からない。ハルは本気で言ってるからつっこむこともできない。
ハルと私の距離は、肩甲骨まで伸びた私の髪の毛の長さほどしかなくて、ハルの鋭い目とバチっと目が合ってしまった。
ハルの目の色は、少し茶色くて、肌はこんなに近くで見ても白くて綺麗だ。真っ黒の髪の毛は猫の毛のようにふわふわで、思わず撫でてしまいたくなる。
女の子みたいに綺麗な顔をしているのに、捲ったパーカーから見える腕は私よりずっと太くて、喉仏はハッキリと分かるほど突起している。
私は思わず、自分にはないその喉仏に触れてしまった。
あの日から、不思議とハルがそばに来るとドキドキするようになってしまった。
ドキドキする、というよりも、愛おしくて胸が苦しくなる、という感情に近かった。
何があっても私を取ると言ったハルの真剣な声が、鼓膜の奥にまで張り付いて離れない。
ハルのことをいまさら意識してから、部屋に二人きりだったり、抱きしめあったりしたことが、急激に恥ずかしくなってきた。
ハルは、一体私のことをどう思っているんだろう。どんな意味で大切に思ってくれているんだろう。
「ハル君、いらっしゃい」
今日は珍しく母親の帰りが早く、ハルが私の家に来る頃には夕飯の支度をしていた。ハルはいつも言わないお邪魔します、を口にしてから、いつもより少しかしこまって部屋に上がった。
「冬香、今日はリビングにワックスかけたばっかりだから、自分の部屋で遊んでてくれる?」
こんな日に限って、母親はとんでもないリクエストをしてくる。私はうんと頷きはしたが、内心は緊張していた。
自分の部屋にハルを入れたことはなかったし、ハルを変に意識してしまっているこのタイミングで二人きりになるとは思っていなかった。
ちらりとハルを見ると、いつもと変わらない表情で「部屋で映画観れんの?」と聞かれた。観れるけど、と私は真顔で静かに返した。
階段を上がって一番奥の自分の部屋のドアを開けると、すぐに沈黙が気まずくならないようにテレビをつけた。
ハルはきょろきょろと辺りを見回しながら部屋に入り、私のお気に入りの大きな丸いクッションの上に座った。
「何これ、超いいじゃん」
「でしょ! それに座って映画観ると最高なの」
「そんな贅沢なことしてたのかお前は」
ハルがクッションの弾力を確かめるように何度か跳ねる度に、ハルの柔らかい髪の毛がふわっと宙に浮いた。
「あ、待ってハル、危ない」
ふと、ハルのクッションの近くに、シャーペンが落ちていることに気づいた私は、かがんで彼の近くへ寄った。
すると、クッションに座っていたハルが、下にかがんでいる私の髪の毛に、突然するっと指を通した。
「うわっ、何すんの」
驚きハルを見上げると、ハルは真顔で私の髪を掴んだまま呟いた。
「髪の毛伸びたなーと思って。お前小さい時ずっとヘルメットみたいなおかっぱだったじゃん」
「うるさいなあ、髪離してよ」
「いいだろ。触るくらい」
「よ、よくないよ」
「なんで? 俺なのに?」
俺なのにって……。一体どこからその自信が来るのか私には分からない。ハルは本気で言ってるからつっこむこともできない。
ハルと私の距離は、肩甲骨まで伸びた私の髪の毛の長さほどしかなくて、ハルの鋭い目とバチっと目が合ってしまった。
ハルの目の色は、少し茶色くて、肌はこんなに近くで見ても白くて綺麗だ。真っ黒の髪の毛は猫の毛のようにふわふわで、思わず撫でてしまいたくなる。
女の子みたいに綺麗な顔をしているのに、捲ったパーカーから見える腕は私よりずっと太くて、喉仏はハッキリと分かるほど突起している。
私は思わず、自分にはないその喉仏に触れてしまった。