「冬香がそこに止まったままだと、俺だって動けないんだ。動くことが罪のように感じるんだよ。それをお前は、分かってない」
東堂の率直な言葉が、胸のど真ん中に突き刺さった。分かっていた。気づいていた。自分が引きずり続けることで、東堂を巻き込んでいたことも。それなのに、どうにもできなかった。どうにもしようと思っていなかった。そんな自分が情けなくて、私は硬直してしまった。
「もう一度言うけど、お前が好きだ。大学生の頃から」
東堂の言葉が、空っぽの体の中を駆け巡る。行き場をなくしたその言葉たちは、ただただ私の中で暴れまわるだけで、何にも形にならない。
過去をどうにもしたくないから、今をどうにもできないだけなのだと、もう本当は気づいている。
こんな私を見たら、あの人はなんて言うだろうか。きっと怒るだろう。お前の心臓は何のためにあるのだと、きっと君は、私を叱るだろう。
「私は、東堂に、幸せになってほしい。それは、本当なんだよ……本気で思ってるんだよ」
絞り出すような声でそう伝えると、彼は私の頭をバシッと叩いた。
目を見て察した。彼は多分今、本気で怒っている。
「お前はどの角度から人生眺めてんだよ。生きてるのはこの世だろ。お前は今俺の隣にいて、時間は止まらないんだ、死ぬまで」
「東堂……」
「行くぞ」
「え……? どこに」
「行くぞ。二ヶ月後にある、サークルのOB会兼同窓会」
「え、嫌だよ、無理だよ!」
「うるせえな、行くんだよ。お前はもっと、周りにいる人のことも視界に入れろ」
東堂の本気の眼差しに、私はまた言葉を失ってしまった。東堂は正論しか言わないから、言い訳ばかりの私は黙るしか無くなってしまう。東堂はいつだって正しくて、いつだって眩しい。
この人と一緒にいたら、きっと誰だって幸せになれると、そんな風に思う。
「参加で返事しておくからな」
あの人の匂いが染み付いたあの場所に、帰ることはすごく怖い。立ち止まったままでも私はきっと困らない。だけど、東堂のように、これ以上周りの人を悲しませるような自分でいたくないとは思う。
少しばかりの罪悪感が、行きたくない、という言葉を喉の奥の奥に押し込めていた。
もうすぐ夏がやってくる。
君と一緒に眩しすぎる太陽の下でカメラを回したのは、もう何年も前の話だ。