「ハルはどうして、そんなに私を信じてくれるの……」
震えた声でそう問いかけると、ハルは私から離れて、真っ直ぐに目を合わせて答えた。

「心臓をくれたから」

衝撃的な言葉に、私は一瞬どう反応したないいのか分からず、表情を強張らせた。
真剣に答えて、と言おうとしたけれど、ハルは真顔のままだったので、私はその言葉を飲み込んだ。

「……俺さ、冬香に言ってないことがあるんだ。俺、冬香の心臓と……」

そこまで言いかけた時、ちょうど良く昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。
ハルは、チャイムで言葉を遮られたことに、心なしか安堵しているように見えた。

「ごめん、今度家で話すわ」
「う、うん、分かった……」
ハルは優しく私の頭をぽんと撫でて、行こうと行って教室の扉を開けた。
薄暗かった視聴覚室に、太陽の光が差し込んで、私は一瞬目を閉じた。
ここが学校であるということを、一瞬忘れていた。それくらい、ハルの言葉ひとつひとつに神経を研ぎ澄ませていた。

前を歩くハルの後ろ姿は、年相応の男子中学生の後ろ姿なのに、クラスメイトと大きく変わらないはずなのに、その骨ばった背中には一体何が背負わされているの。
私じゃその荷物を、分け合えないのかな。

「ハル」
聞き取れないくらい小さい声で、ハルの名前を呼んだのに、ハルはどうした? と言ってすぐに後ろを振り返り立ち止まった。

そんなハルを見て、胸の奥が軋んだ。 何があっても私を取るという言葉が、今更胸の中に染み渡っていったから。

私も同じようにハルのことを大切に思っている。それなのに、ハルはいつも自分の気持ちだけを一方的に伝えて去ってしまう。

そんなハルだからこそ、守ってあげたくなるのはなぜ。

ハルは、何が正しくて悪いのかではなく、何が大切で何が大切じゃないかという観点で、世界を見ていた。
その覚悟を、彼は十五歳にして決めていた。

そんなハルだからこそ、私はどうしようもなく、彼のそばにいたいと思ってしまったんだ。