「なあ、凪沙」

優海に呼ばれて、自分の考えに沈みこんでいた私は、はっと我に返った。

「え? うん」
「夏休み、楽しみだな」

いつものように明るく笑いかけてくる、何も知らない優海。

「色んなとこ行こーな!」

そんな屈託もない言葉に、どうしても素直に頷くことができなくて、

「……期末テストで全教科平均点以上とれたらね」

と悪態で返した。

「ええっ!? 無理無理、俺の中間の点数知ってるだろ!? ハンデ高すぎ!」
「それを言うならハードルでしょ、バカ……」
「あっ、そっか、ハードルだハードル! ハードル高すぎだよ!」
「あーあ、この調子じゃ平均以上は無理そうだな。これは夏のお出かけは絶望的だなー」
「ええーそんな……せっかくの夏休みなのに……」

優海が露骨に落胆する。

「何言ってんの、行かないとは一言も言ってないでしょ。条件つけただけ。優海がそれクリアすればいいだけの話なんだから。ね、だから勉強がんばろ」
「それはそうだけどー……カレカノなのにー……」

唇を尖らせていじける優海をくすくす笑いながら見ていたら、今朝までの食欲のなさも暗い気持ちも、不思議ときれいさっぱり消えてしまっていた。