優海が『夏祭り』と呼んだのは、鳥浦町の伝統的な祭り、『龍神祭』のことだ。

毎年八月の盆休み前に行われる祭りで、鳥浦の夏の風物詩になっている。

古くから人々に信仰されてきた守り神である龍神様に一年の感謝を伝え、今後も変わらぬ加護を祈願する祭りだ。

龍神様の石が祀られている祠で祈りを捧げてから、参加者全員が手作りの真っ赤な提灯を持って行列になり、町内を一周する。

優海は生まれたときから毎年参加しているというし、私も引っ越してきてからは毎年必ず優海と一緒に行っている。

露店は五つほどしか出ないし、ほとんど地元の人しか来ないような小さな祭りだけれど、鳥浦の人にとっては大事な祭りだ。

でも最近は、町民ではない人たちがかなりの人数訪れるようになっている。

三年前の祭りのあと、ツイッターで『A県T市鳥浦の祭り。この世のものではないような光景』という言葉とともに提灯行列の写真が投稿されて、何万回もリツイートされたのだ。

それで、街灯もない真っ暗な海沿いの一本道を行く真っ赤な提灯行列が幻想的で美しいと話題になり、急激に知名度が上がったのだ。

去年も一昨年も、一眼レフのカメラを首から下げた市外の人がたくさん写真を撮りに来ていて、何が流行るか分からないものだなあと不思議に思ったのを覚えている。