門を出て扉を閉め、振り向く。

母親に連れられてやって来た五歳のころから高校一年生の今までずっと住んでいる家。

それより前のことはあまり覚えていないから、私の人生はこの家と共にある。

目をつぶっていても歩き回れそうなこの家でこれからもずっと暮らすことになるんだろうと、当たり前のように思っていたけれど、そうなるとは限らなかったのだ。

また気持ちが沈みかけた、そのとき。

「なぎさーっ!」

と、バカみたいに明るい声が飛んできた。

それから、しゃかしゃかしゃかと自転車を超特急でこぐ音。

次に、きゅっとブレーキをかけて急停止し、がしゃんとスタンドを下ろす音。

それからばたばたと駆け寄ってくる足音。

いつもと同じその騒々しさで、声の主は振り向かなくても分かる。

「凪沙、おっはよー!」

どんっ、と背中に軽い衝撃があって、すぐに両側から腕が回ってきた。

「もー、朝から暑苦しいなー」

私は抱きしめられながら眉をひそめて視線を斜め上にあげる。

そこには予想通り、満面の笑みを浮かべた幼馴染の優海の顔。

細くて色の薄い猫っ毛がふわふわと揺れて、太陽の光をきらきらと反射している。

くっきりとした二重瞼の大きな瞳は、今は嬉しそうに思いきり細められていた。

「俺の愛の熱さを思い知れー、あはは」

と楽しそうに笑う彼は、私がどんなに迷惑そうな顔をして見せても、いつもどこ吹く風だ。