「やましいって……」
「……三島くんのこと、見てたから……」

視線を落としながら申し訳なさそうにつぶやかれた言葉に、いやいや、と答えながら首と手を振る。

「そんな、見るのは美紅ちゃんの自由だし、私が怒るようなことじゃないし」

それ以上、どう言っていいか分からなくなり口をつぐんだ。

『どうぞご自由に見てください』などと言うわけにもいかない。お前は何様のつもりだ、という話だ。別に優海は私の所有物じゃない。

「でも……私、日下さんの彼氏だって知ってるのに、三島くんのこと……」

『す』という言葉が聞こえた気がしたと同時に、私は思わず「ああっ」と叫び声をあげて制止した。

うつむき加減だった美紅ちゃんが驚いたように目をあげる。

「どうしたの?」
「いや、あの……」

苦し紛れに美紅ちゃんの背後を指さして、「猫がいたような……」と漫画みたいなごまかし方をしてしまった。

彼女は「えっ?」と振り向いてきょろきょろと見回す。

「猫? 珍しいね、校内にいるなんて。すぐそこ道路だし、危なくないかな……」

心配そうにつぶやきながら私が指したあたりの植木の間を覗きこむ背中に、申し訳なさがこみあげてくる。

「ごめん……猫も……うそ……」

正直に告白すると、美紅ちゃんは「ええ?」と噴き出しながら振り向いた。

「ふふ、日下さんって面白いね。もっと真面目で話しにくい感じかと……あ、ごめん」
「いや、いいよいいよ全然!」
「ありがと。話しにくいのかなと思ってたけど、冗談とか言うんだね。なんかほっとしちゃった」