そのときだった。

「すごーい、かっこいい……」

という声とともに、小さな拍手の音が聞こえてきた。

反射的にぱっと視線を向ける。

そこには、隣の出入り口から体育館の中を覗きこんでいる美紅ちゃんの姿があった。

思わず凝視していると、視線を感じたのか、ふっと彼女がこちらを向いた。

「あ……っ」

美紅ちゃんはひどく気まずそうな顔をした。

でも、歪んだ表情のままこちらを見ている。

私も目を逸らすタイミングを失ってしまって、しばらく見つめ合った。

ここは私から声をかけないと、と口を開きかけた、そのとき。

「――ごめんなさいっ!」

彼女が勢いよくがばっと頭をさげた。

さらさらの髪が宙に踊る。

次の瞬間、美紅ちゃんは踵を返して走り出した。

「えっ、ちょっ……待って!」

私は慌てて後を追う。

足音に振り向いた彼女が、恐怖にひきつった表情を浮かべた。

それからスピードをあげる。

速い。さすが現役の運動部員。新体操って優雅に見えるけど体力使うんだろうな、と感心しながら追いかける。

でも、私の足はすぐにもつれはじめて、予想通りどんどん引き離されてしまった。

帰宅部は五十メートル以上は全力疾走できないのだ。

こうなったら最終手段、と思って声を張り上げる。

「あっ、優海!!」

私が叫んだと同時に、美紅ちゃんの足がぴたりと止まった。

彼女が振り向く前に、なんとか追いついてその華奢な肩をがっしりとつかむ。