野球をやめてバスケを始めたばかりのとき、『本当に野球やめちゃっていいの? バスケでいいの?』と訊ねた私に、優海は笑顔で答えた。

『野球はもちろん大好きだけど、バスケはバスケでめちゃくちゃ楽しいよ。野球と違ってずっと走りっぱなしだし点数がばんばん入るからジェットコースターみたいなんだ。それに、シュートが決まったときの嬉しさと言ったらもう!』

暗さや悲しさを少しも感じさせない、全てを飲み込んで前を向いている彼の強さに心を打たれたのを今でも覚えている。

勝手に悲しんで怒って負の感情に支配されていた私も、なんだかバカらしくなってしまって、優海を見習って新しい世界を見ようと決意したのだ。

我ながら気が強くて気性が荒く、怒りっぽくて人を許せなくてすぐに暗い淵に沈んでしまう私は、今までどれほど、彼の明るさとおおらかさに助けられてきたことだろう。


体育館の中には部員以外は入りにくいので、重い鉄の扉が開け放たれた出入り口から中を覗きこむ。

今日は他の部活がもうテスト休みに入っているようで、男女のバスケ部しかいなかった。

今は女子が休憩中で、男子バスケ部がオールコートを使っている。