うまく答えを返せずにいると、

「なんかあった? 大丈夫?」

と優海が階段を降りてきた。

最近こういうこと訊かれてばっかだな、と思いつつ、優海を手で制止して階段をのぼる。

「なんでもない。っていうか、さっきの何? ほんと危なかったじゃん、もう!」

怒った口調で言って話題を変える。

優海は「それな」と頭をかいた。

「すーぐふざけて周り見えなくなるんだから。気をつけなよ?」
「はい、以後気をつけます!」

敬礼ポーズをして背筋をのばす彼に、「そういうとこ!」とつっこみながら隣に並んだ。

一緒に階段をのぼりながら、「ところでさ」と声をかける。

「さっきの女の子、知り合い?」
「へ?」
「あ、いや、なんか会話の感じが初対面ぽくない感じだったから」
「あー。あの子新体操部でさ、部活のとき体育館でたまに隣になるから、挨拶は何回かしたことある」
「へー。……可愛い子だよね」
「そうだなー」

自分で言っておいて、さらりと肯定した優海の言葉に心臓が嫌な感じで跳ねた。

でも、一瞬あとには、

「凪沙がいちばん可愛いけどな!」

と屈託なく満面の笑みで言われたので、私は苦笑いを浮かべて肩をすくめた。

「それは盛りすぎだわ……」

てか私可愛くないし、と続けたいところだけれど、そう言うと優海が全力で否定して私の可愛いところを延々と語りはじめることは経験上分かっているので、言わない。

恋は盲目、あばたもえくぼ、とはよく言ったものだ。

まあ、かく言う私も、優海ほど素直で優しい人間はなかなかいない、とか思っちゃってるわけだけど。