美紅ちゃんは「え……」と戸惑ったような表情で、それでも両方の手のひらを出して優海の飴玉を受け取った。

「もらっちやっていいの?」
「いいよいいよ、てか俺が悪かったんだし。ほんとごめんな。じゃ!」

優海は最後にもう一度手を合わせて軽く頭を下げてから、化学室のある三階へ向かって階段を登りはじめた。

その背中を、美紅ちゃんが飴を胸に抱いたままじっと見送っている。

やっぱり少し頬を赤らめたまま。

思わず立ち止まって見ていると、ふいに彼女がこちらを向いて、はっとしたように口に手を当てた。

それから、私に向かってぴょこんと会釈をして、ぱたぱたと教室のほうへ駆けていく。

つやのある長い髪が、動きに合わせてさらさらと揺れていた。

「……凪沙? 大丈夫?」

隣から声をかけられて、はっと我に帰った。

「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「うん、なんか、……あれだね」

真梨はあいまいに言葉を濁したけれど、言いたいことは分かった。

「まあね。優海っておバカのくせになぜかモテるんだよね、昔から」

私は『気にしてないから気をつかわないで』と伝えるためにあっけらかんと言う。

「単細胞バカだけど人当たりだけはいいからね~」
「うん、そうだよね。明るいし話しやすいし」
「まあ、それだけが取り柄だからね」