五時間目は化学の授業なので、私は真梨と一緒に化学室へと向かった。

数メートル先の廊下を、優海と黒田くんが歩いている。

階段の下にさしかかったとき、ふざけて黒田くんに体当たりした優海が、はずみでバランスを崩した。

タイミングの悪いのことに、向こうから女子が一人やって来る。

「優海、前! 危ない、ぶつかる!」

思わず声をかけると、優海は持ち前の反射神経を発揮して何とか体勢を戻した。

「……っぶねー!」

がばっと顔をあげた優海は、ぶつかりそうになった女子に慌てて声をかける。

「ごめんっ! びびったよな? ごめんな! ケガとかしてねえ?」

手を合わせて必死に謝る優海に、その女子は「大丈夫、大丈夫」と答えて両手と首を振る。

「ぶつかってないし、ケガなんてしないよ」
「でもびっくりしただろ? 心臓にわるいよな、ごめんな」
「ううん、気にしないで」

安心させるように笑うその子は、隣のクラス、もうひとつの普通科クラスの女子だ。

小柄で華奢な身体つきで、きれいなストレートの黒髪、真っ白な肌、ピンク色の唇。

可愛いと評判の子で、たしか名前は美紅ちゃん。

優海と向かい合って話す彼女の、その色白の頬がほんのりと赤くなっているのは、きっと私の気のせいなんかじゃないはずだ。

「あっ、そうだ!」

突然声をあげた優海が、ポケットの中をさぐって飴玉の包みを取り出した。

「お詫びにこれやる、よかったら食べて」