「進路とかさあ、焦らなくていいんだよ。まだ俺たち一年なんだし」
パッケージを開け、海苔をぱりぱり鳴らしながらおにぎりを取り出す。
いつもの動作をしながらも、優海の表情はいつになく真顔だった。
「凪沙は凪沙のスペースで考えればいいじゃん」
一瞬、彼が何を言っているのか分からなくて、私は動きを止めた。スペース……空間? 宇宙?
真梨と黒田くんも首をひねっている。
それからすぐに『ペース』を『スペース』と言い間違えたのだと気がついて、私は思わず噴き出した。
「それを言うならペース、でしょ」
「あっ、そうか!」
優海が照れくさそうに頭をかくのを、黒田くんが「せっかくいいこと言ったのに、決まらねえなー」とからかう。
真梨もおかしそうに笑って、
「三島くんて横文字苦手だよね。この前のインフレ事件も笑ったなー」
「あー、あれな。教室じゅう爆笑だったもんな」
インフレ事件とは、先週の政経の授業で起こったことだ。
『ある程度の期間、継続的に物価が上昇し続ける現象をなんと言う?』という質問で優海が指名された。
でも彼は全く答えが分からなくて、『最初の三文字だけ教えて先生!』と懇願したところ、先生が『インフ……』と教えてくれた。
そこで優海はぱっと顔を輝かせて、『インフルエンザ!』と堂々と言ってのけたのだ。
先生がインフ、と言った時点で、インフルエンザとか言うなよ優海……と念を送っていた私は、予想通りの結果にうなだれてしまった。
今でもあのときの優海の解答は、クラスのみんなのかっこうのネタになっている。
パッケージを開け、海苔をぱりぱり鳴らしながらおにぎりを取り出す。
いつもの動作をしながらも、優海の表情はいつになく真顔だった。
「凪沙は凪沙のスペースで考えればいいじゃん」
一瞬、彼が何を言っているのか分からなくて、私は動きを止めた。スペース……空間? 宇宙?
真梨と黒田くんも首をひねっている。
それからすぐに『ペース』を『スペース』と言い間違えたのだと気がついて、私は思わず噴き出した。
「それを言うならペース、でしょ」
「あっ、そうか!」
優海が照れくさそうに頭をかくのを、黒田くんが「せっかくいいこと言ったのに、決まらねえなー」とからかう。
真梨もおかしそうに笑って、
「三島くんて横文字苦手だよね。この前のインフレ事件も笑ったなー」
「あー、あれな。教室じゅう爆笑だったもんな」
インフレ事件とは、先週の政経の授業で起こったことだ。
『ある程度の期間、継続的に物価が上昇し続ける現象をなんと言う?』という質問で優海が指名された。
でも彼は全く答えが分からなくて、『最初の三文字だけ教えて先生!』と懇願したところ、先生が『インフ……』と教えてくれた。
そこで優海はぱっと顔を輝かせて、『インフルエンザ!』と堂々と言ってのけたのだ。
先生がインフ、と言った時点で、インフルエンザとか言うなよ優海……と念を送っていた私は、予想通りの結果にうなだれてしまった。
今でもあのときの優海の解答は、クラスのみんなのかっこうのネタになっている。