それからしばらくはお互いに何も言わず口と手を黙々と動かしていた。

夏の真昼の陽射しに包まれた居間、光に浮かび上がる畳の目、ゆるい風を送りながらゆっくりと首を振る扇風機、食卓をはさんで向かい合う二人。

食事に夢中になっていた優海が、ふと思いついたように顔をあげた。

「なんかさあ、凪沙」
「ん?」
「将来結婚したらこんなふうなんだろうなって感じ」

そう言って、にへっと顔を崩して笑う。

その顔を見ると、どう返せばいいか分からなくなって、

「……結婚するかどうかなんてまだ分かんないじゃん」

とひねくれた答えを返した。

その瞬間、優海が絶望的な表情になる。

「えっえっえっ、なんで!? 凪沙、俺と結婚してくんないの!?」

ガーン、という効果音が顔に書いてありそうな慌てぶりに、くすりと笑みを洩らしてしまった。

「そんなこと言ってないじゃん。分かんないって言っただけでしょ」
「あっ、そういうこと? じゃあ、今のところは結婚してくれるつもりってことだな?」
「今のところは、ね」
「はーっ、よかったー!!」

ふうっと安堵のため息をついて、優海は笑顔に戻った。私も笑う。

でも、顔では笑いながらも、私の心の中では、さっき『今のところは』と言った自分の言葉がぐるぐると暴れまわっていた。