「……ねえ、優海」
「ん?」
「玉子焼きも、美味しい?」

急にこんなこと言ったら流れ的に不自然かな、と不安になったけれど、優海は気にしたふうもなくひょいっと箸先でひとつつまみ、ぱくっと食いついた。

「んんっ、美味い! 何かいつもとちょっと違うけど、甘くて美味い」

その言葉を聞いた瞬間、自分でも驚くほど大きく胸が高鳴った。

嬉しい。自分が作ったものを美味しいと言ってもらえるのって、こんなに嬉しいんだ。

こんな喜びは今まで知らなかった。

優海は美味しそうに目を細めながら玉子焼きをもうひとつ頬張る。

そんな姿を見ると、抑えようもなく口許が緩んでしまう。


でも、私が作ったのだということは、あえて言わない。

優海が初めて私の手料理を食べたということは、彼は知らなくてもいい。

私だけが知っていて、美味しいと言ってもらえたことをひそかに喜んでいればいい。

優海は知らないほうがいいのだ。だって、私が彼のために普段はしない料理をしたなんて知ったら、きっと大喜びしてしまうから。

「よかったね」

何も言えない代わりに、私はその一言だけを呟いた。

何も知らない優海はくったくのない笑顔で「おう」と笑った。