蓋をしめると、おばあちゃんが風呂敷できれいに包んでくれた。

「じゃあ、行ってきまーす」

優海の暮らす家までは、徒歩で五分ちょっと。

その距離でも普段は自転車を使っているけれど、食べ物を届けるときは歩きで行く。

風呂敷包みを提げてのんびりと歩いていると、海風が柔らかく当たって気持ちがいい。

海岸に打ちつける波の音と、家々の庭木からしゃわしゃわと降り注ぐ蝉の声。


連絡をしていないから、突然やってきた私を見たら、優海はきっと驚いた顔をして、それから嬉しそうに笑うだろう。

その笑顔を想像すると、自然と足どりが軽くなった。

優海の家が見えてきた。

築四十年を越える日本家屋。

古いけれど、建物は大きく庭も広くて、このあたりではいちばん立派な家だ。

「おーい、優海ー。ご飯もってきたよー」

いつものように玄関を素通りして庭に入り、縁側から中に声をかける。

木々が生い茂るこの庭では、蝉の声がひときわ大きい。

優海ひとりでは手入れが追いついていないので、雑草が生えて鬱蒼とした印象だ。

またそのうち草むしりをしなきゃいけないな、と思いながら、もう一度「優海」と呼んだ。

すると、ばたばたと慌ただしい足音が聞こえてきた。

「えーっ、なになに、凪沙? びっくりしたー」

声と同時に、奥の間から満面の笑みの優海が顔を出す。