「凪沙、行こうぜ!」

帰りのホームルームが終わると同時に優海が私の席まで飛んできた。

「早!」
「帰る準備先に済ませてたからな! 偉いだろ」
「それはいいけど、ちゃんと先生の話聞いてた?」
「聞いてた聞いてた」
「じゃ、明日の朝までに提出のプリントは?」
「え?」

予想通りのリアクションに私は大袈裟に肩をすくめた。

「やっぱりね。どうせ上の空で聞いてたんでしょ。テストの学習計画表、明日提出だからね!」
「あっ、そういえばそんなこと言ってたな」
「もう……後で手帳買ったらちゃんとメモしときなよ」
「りょーかい!」

あはは、と笑ってから、優海は私の手をとって立ち上がらせた。

「じゃ、一刻も早く行くぞ!」
「はいはい……」

どうも、手帳を買いに行くという本来の目的よりも他のことを楽しみにしているような気がする。

「あー、凪沙と放課後デートとか、夢みたいだなあ」

靴箱に向かう途中で、優海が浮かれたように言った。

やっぱり、と内心でため息をつく。まあ、分かってはいたけど。

「中学のときもしょっちゅう一緒に帰ってたし、帰りに寄り道もしてたじゃん」
「でもさあ、学校帰りに買い物デートとか、なんかいかにも高校生って感じでいいじゃん!」

優海の所属するバスケ部は、うちの高校にしては熱心に活動していて、平日に練習が休みになるのは土日が大会や練習試合でつぶれてしまったときだけで、月に一日あるかないかくらいだ。

私は帰宅部で、あまり帰りが遅くなるとおばあちゃんが心配なので、行きは優海と一緒だけれど帰りは別々だ。

だから、一緒に帰るというだけで少し嬉しくなってしまうのはあるけれど、優海が喜びすぎてうるさくなりそうなので言わない。